FP・識者の保険コラムExpart Column

FPが教える!慢性疾患を抱えている方が家計管理で大切なこと

投稿日:2025年11月21日

糖尿病や潰瘍性大腸炎など、治療が長期にわたる慢性疾患は、医療費が「継続的な固定費」となるため高額になりがちです。

本記事では、利用可能な公的制度や、費用を計画的に確保する方法をFP(ファイナンシャルプランナー)が解説します。
慢性疾患の経済的な負担を軽減し、治療と生活の質(QOL)を両立させるための知識を身につけましょう。

慢性疾患が家計にもたらす3つの難題

慢性疾患を抱えると、
「医療費の継続的な固定費化」、「収入の不安定化」そして、両者が引き起こす「精神的な重圧」という3つの難題が一度に発生します。
これらの難題について、早めに対策を立てて、治療に専念できる体制を作ることが大切です。

継続的な医療費の負担と具体的な費用

慢性疾患の治療費は、通院・検査・薬剤費が毎月、長期間にわたって積み重なり、高額になりがちです。

一つの例として、糖尿病の事例を見てみましょう。

「令和5年患者調査」によると、糖尿病の推計患者数は年間218.1万人、「令和5年度国民医療費 統計表」によると、糖尿病の医療費は1兆1,958億円です。
単純計算になりますが、これをもとに糖尿病患者1人あたりの医療費を計算すると、約55万円です。

慢性疾患にかかる医療費の厄介な点は、こうした治療にかかる費用が固定費のようにかかり続けることです。
固定費とは、生命保険料やスマートフォンの通信費など、毎月ほぼ定額でかかる支出を指します。

完治の見通しが立てられれば良いのですが、治療が長期にわたり、いつまでこうした支出が続くのか見通しにくいところも、慢性疾患の頭の痛い問題といえるでしょう。

■ 引用元:令和5年患者調査
■ 引用元:令和5年度国民医療費 統計表

就労環境の変化と収入の不安定化

慢性疾患を持つ方にとって、経済的な負担は医療費だけにとどまりません。
病状のコントロールや定期的な通院により欠勤や早退が増え、給与などの収入が不安定になるリスクもあります。

また、治療のために定期的な通院時間を確保する必要がある場合や、体への負担が大きい業務が難しくなった場合、時短勤務や配置転換を余儀なくされることもあるでしょう。

これらの要因が、昇進・昇給のスピードの遅れにつながり、長い目で見れば生涯収入が減少するリスクさえあります。

治療と家計の不安による精神的負担

治療に伴う身体的な負担に加え、「毎月の医療費の目処が立たない」「病気が悪化したら生活が破綻するのでは」といった医療費や将来への漠然とした不安が、大きな精神的ストレスとなります。

この不安が原因で治療に集中できなくなったり、QOLを低下させたりする悪循環に陥るリスクがあります。

慢性疾患による負担を軽減するために活用したい公的制度

慢性疾患の経済的・精神的な負担を軽減する最初のステップは、国や自治体の公的制度という「セーフティネット」を活用し、家計の安定を図ることです。

ここでは、継続的にかかる医療費の自己負担を減らす制度と、病気による収入の不安定化に備える、公的支援の具体的な活用方法を解説します。

医療費の負担を軽減する制度

慢性疾患による医療費負担を軽減するための、代表的な公的支援制度は以下のとおりです。

■ 高額療養費制度の「多数回該当」の活用
高額療養費制度は、1ヶ月の医療費自己負担額が上限を超えた場合に超過分が払い戻される制度です。

さらに継続的な治療が必要で、過去12ヶ月以内に3回以上上限額に達する「多数回該当」になった場合、4回目以降は上限額がさらに自己負担が減ります。
毎月継続して医療費を支払う方は恩恵を受けやすいため、確認しておきましょう。

■ 特定医療費(指定難病)助成制度の確認
潰瘍性大腸炎など、国が定める「指定難病」に該当する疾患の場合、この助成制度の対象になる場合があります。

制度を利用できれば、医療費の自己負担割合が下がり、さらに所得に応じた月々の自己負担上限額が設定されます。
ご自身の疾患が対象となるか、現在お住まいの都道府県の相談窓口(保健所等)に問い合わせてみましょう。

■ ジェネリック医薬品など費用そのものを抑える工夫
費用そのものを抑える努力も大切です。
医師や薬剤師と相談し、先発医薬品からジェネリック医薬品に切り替えることを検討しましょう。

収入の不安定化に備える公的支援

病気による収入の不安定化が不安な場合は、療養中の生活を保障する傷病手当金(健康保険)や、病状により就労が困難な場合の障害年金といった公的制度が利用できる可能性があります。

傷病手当金は、会社員(健康保険加入者)が利用できる制度で、病気やケガで休業し、給与が得られない場合に支給されます。
個人事業主が加入している国民健康保険は、傷病手当金の制度がないため、より多くの備えが必要になります。

病状が重く、就労が困難になった場合は、障害年金の申請が可能です。
主な相談先として、年金事務所や社労士、FPが一般的です。

家計管理で継続的な支出に備える

公的制度の活用である程度、経済的な負担が軽減できたら、今度は、継続的な医療費支出への対策を立てましょう。

以下では、その具体的な方法を解説します。

医療費の予算化と積立を習慣にする

慢性疾患の家計管理では、「残ったお金で払う」のではなく「必ず払うお金として先に確保する」ことが重要です。
年間医療費を月割りにして予算化し、毎月必ず別枠で医療費積立として確保する習慣をつけましょう。

QOLを守るための健康投資予算も確保する

治療を支える健康維持こそが、将来の医療費を抑える「未来への投資」です。
食事療法や運動のための費用を必要経費と捉え、QOLを守るための予算を適切に配分しましょう。

医療費以外の固定費を見直す

医療費が固定費として増加する分、他の支出で余力を作る必要があります。
変動しやすい食費などよりも、通信費、サブスクリプションといった固定費は、一度見直せば継続的に効果が高いため優先的に見直しましょう。

ただし、既に民間の医療保険に加入しているときは、安易に解約しないよう注意が必要です。

民間医療保険の活用

民間医療保険とは、病気やケガで入院・手術をした際に、給付金が支払われる保険であり、公的医療保険だけでは賄いきれない費用に備えられます。メリットと注意点について見ていきましょう。

公的制度の不足をカバーできる

民間の医療保険は、公的制度でカバーされない費用に備えることで効果を発揮します。
特約などを活用することで、差額ベッド代(個室代)、先進医療費、あるいは特定の疾病の診断時に一時金が支払われる可能性があり、治療の選択肢を広げられます。

民間医療保険の注意点

民間の医療保険は、健康なうちに加入しておくことが最も重要です。
慢性疾患になってから新規で加入しようとすると、審査で断られたり、特別条件が付いたり、告知基準緩和型への加入となり保険料が割高になったりと、選択肢が大幅に狭まってしまいます。

まとめ

慢性疾患を持つ方は長期にわたるため、お金の不安を解消だけでなく、心の安定とQOLの向上も大切です。
まずは公的制度を活用したうえで、家計管理で継続的な医療費支出への耐性を強くしていきましょう。

慢性疾患にかかるお金の不安がある方は、公的支援や家計管理、民間の保険についてトータルで相談できるFPにご相談ください。

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