生命保険販売の手数料開示問題の背景と、最近の動向まとめ
手数料開示における全体的な流れ
2016年1月:銀行窓口における保険販売に対し、金融庁が手数料開示の要求。
2016年10月:大手5銀行を中心に、販売手数料を開示することになった。
2017年2月:銀行だけでなく乗合保険代理店に対しても生命保険販売の手数料開示を求めた。
銀行窓販とは
銀行等の金融機関が、窓口で保険の販売を行うことを銀行窓販といいます。
2001年4月の保険業法改正により、住宅関連信用生命保険・長期火災保険・海外旅行傷害保険の窓販が可能となりました。
その後、窓販可能な保険商品は段階に増えていき、2007年12月22日には全ての保険商品の窓販が許可されました。
銀行窓販の手数料開示問題の背景
2016年1月に金融庁は銀行等の金融機関に対し、2016年3月末までに保険販売手数料の開示を要求しました。
金融庁がこのような要求をした背景には、「投資信託等の金融商品は手数料を開示しているのに対し、投資信託に似た内容の保険(変額保険・外貨建保険等)の手数料は開示されておらず、不公平であった」ことや、「銀行は手数料の高い保険商品ばかりを顧客に勧めているのではないか」という疑惑を持たれていたことがあります。
大手銀行をはじめとして、各銀行が手数料を開示
手数料の開示を求められた当初は地方銀行を中心に反発がありました。
地方銀行が反発した理由には「銀行等の金融機関だけが手数料の開示を求められ、保険代理店には開示を求めていない不平等さ」や「手数料を開示することで、収益力の高い保険商品の販売が落ち込むことへの懸念」がありました。
しかし、2016年10年には大手5銀行(三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、三井住友信託銀行)が相次いで手数料開示をすることを公表し、大手の動きに追随して地方銀行も手数料を開示することになりました。
手数料の開示は、今後は銀行だけでなく保険ショップなどの大型保険代理店にも広がることも予想されます。
保険販売の手数料開示の最近の動向のまとめ
保険手数料開示1カ月 I型→L型に不信感
(2016年10月。日経新聞からの一部抜粋)
「I」型とは販売時に手数料を一括で受け取る従来の方式。2年目以降の手数料がない代わりに、販売時にまとめて受け取れるため手数料の推移をグラフにすると「I」字型になることからそう呼ばれる。
一方、販売時の手数料を抑える半面、5~10年ほどにわたって分割で手数料を受け取る方式が「L」型だ。
手数料をグラフにすると「L」字型になる。見かけ上、販売時の手数料が下がっているので、地銀などはこれで「保険の販売手数料が高過ぎるのでは」といった議論に幕引きを図るつもりだった。
同庁の検査官は「L」型への変更には「見せかけだけの対応だ」と不信感をあらわにしている。
銀行で営業ノルマ撤廃 サービス向上に期待
(2016年12月。Economic Newsからの一部抜粋)
銀行では過大なノルマが行員に課せられるケースが多く、営業成績をあげるために顧客に不用な金融商品を買わせるということが問題視されている。
投資商品や保険、クレジットカードなどさまざまな商品にノルマが課せられて、達成できなかったら自分で購入する「自爆買い」をするケースもあるという。過大なノルマがあることによって、行員は顧客サービスの向上よりも利益優先に走ることは至極当然であろう。
<高利回り>高齢者を狙い撃ちする「外貨建て保険」
(2017年1月16日。毎日新聞からの一部抜粋)
◇支店窓口での保険商品販売で苦情が急増
銀行が支店の窓口で保険商品を販売する「窓販(まどはん)」と呼ばれるルートで苦情件数が増加している。
金融庁の利用者相談室に寄せられた苦情・相談件数は2016年4月から10月までの7カ月間で、前年1年間の件数の2倍を超える107件に達している。
例えば、高齢者が外貨建て保険を購入したことを知った親族からの相談だ。「株取引の経験もないのに、為替リスクのある『外貨建て保険』を販売された。高齢者が商品の内容を十分に理解していたとは思えない」というような内容である。
こうした商品を解約する際には独特のルールがあるが、それを理解していなかったという相談もある。
銀行だけでなく、全国の乗合代理店でも保険販売手数料を開示することに
2月3日に各生命保険各社に対し、複数生保の保険を販売する「乗合代理店」に支払っている販売手数料を開示するよう金融庁が求めたことが分かりました。
金融庁は、手数料を目当てにして顧客のニーズを無視した保険販売が行われているという認識があり、これまで保険ショップや銀行を対象としていた施策が全保険代理店にも課されることになり、生命保険業界全体に大きな影響を及ぼすことになりそうです。
全保険の手数料開示要求、金融庁 乗り合い代理店の顧客保護
(2017年2月3日。中日新聞からの一部抜粋)
金融庁が、生命保険各社に対し、複数会社の保険を扱う「乗り合い代理店」に支払っている販売手数料を商品別に開示するよう求めたことが3日、分かった。
乗り合い代理店向けの全商品が対象。
代理店がさまざまな保険の中で、ニーズに合うかどうかではなく、生保会社から受け取る手数料が高いものを優先する勧誘から、顧客を保護するのが狙い。
「なぜ乗合代理店だけ?」金融庁の施策に疑問の声も
ただ乗合代理店には開示を求める一方で、生命保険会社が抱える自前の営業職員にはそのような義務が課されることは現時点ではなさそうです。
国内大手の生命保険会社ほど営業職員による販売割合が多く、一部では「金融庁が大手生保を保護しているのではないか」という指摘も出ています。
奇しくも文部科学省の職員が明治安田生命への違法天下りが注目を浴びており、大手生保と官僚との癒着を疑う業界関係者もいるようだ。
天下り先の明治安田生命で、「月2回勤務で年収1千万円」 国会どよめく
(2017年2月8日。朝日新聞からの一部抜粋)
問題の一つとなったのは、顧問だった明治安田生命保険での嶋貫氏の待遇だ。
民進党の小川淳也議員は、顧問報酬について「月2日勤務で1千万円か」と質問。嶋貫氏が「社に出向く回数は基本的にそう」「金額はその通り」などと答えると、委員や傍聴人からは「おお」「1カ月2回か」とどよめきが起きた。
5月3日の読売新聞。金融庁、財務局の天下りの記事。当局は自分達のことは、合法であり問題がないと言う。同じようなことが民間であると、不適切な行為と言う。役人はこの矛盾を、冷静に考えて欲しい。権限、予算(税金)に見合う範を示せ。
— みるく (@kNB0hAxv0wPPPEW) May 2, 2017
銀行の顧客軽視姿勢を変革させられるか
「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)」をキーワードに、金融庁の施策は銀行の変革を求めているものといえる。
森金融庁長官が進める改革についてまとめた書籍「捨てられる銀行」では、顧客のためでなく高い手数料獲得のために保険や投資信託を販売をしてきた銀行を非難する金融庁の考えや、販売現場で葛藤する銀行員の声が詳しく載っている。
例えば
「本当は、このような手数料の高い商品は売りたくない。馴染みのお客さんに売ってよいのか心配です。」
顧客に手数料の高い商品から、「オススメ」していくのだという。これが販売の実態だ。
など、銀行を信頼している人ほど裏切られた気持ちにさせられる。
金融庁ではこのような実態を強く問題視し金融機関改革を計画しているが、果たしてそれがどこまで深く実行されるのか森金融庁の本気度が問われそうだ。