FP・識者の保険コラムExpart Column

自動運転車への自動車保険について最近の動向と影響

そもそも自動運転技術とは?

自動車保険
自動運転技術とは、ドライバーが操作をせずに自動車が自律走行する技術のことを言います。

2017年4月時点まで日本では自動運転技術の水準を4段階に分けており最高のレベル4が「完全自動運転」(運転操作に人間は全く必要ない状態)としていましたが、2017年5月中旬より米国に拠点を置く自動車技術者協議会(SAE)が作成した5段階水準に合わせる予定です。

【SAEの自動運転技術水準】
レベル1:(運転支援)システムが前後・左右いずれかの車両制御に係る運転操作の一部を実施。
レベル2:(部分運転自動化)システムが前後・左右の両方の車両制御に係る運転操作の一部を実施。
レベル3:(条件付運転自動化)限定条件の下、システムが全ての運転タスクを実施。ただし、システムからの要請があれば手動運転の必要がある。
レベル4:(高度運転自動化)限定条件の下、システムが全ての運転タスクを実施。システムからの要請に応じなくても、自動運転は継続可能。
レベル5:(完全運転自動化)全ての条件において、システムが全ての運転タスクを実施。

自動運転技術開発の状況について

日本の自動運転技術の開発の歴史は古く、1980年代には車線を認識して走行するシステムの試作をしていましたが、実用化されたものはほとんどありませんでした。

2010年代に入ってアメリカや欧州では自動運転車の公道実験が開始されましたが、日本では自動運転に対する否定的な見方や法整備が進まなかったため、公道での走行実験が可能になったのは2013年からでした。
2013年9月に高速道路での公道実験が開始され、一般道での走行実験は2015年から始まりました。

現在のところ、自動ブレーキ搭載車等のレベル1に該当する自動車(安全運転支援システム搭載車)は既に商品化されています。2017年中にレベル2に該当する自動車も販売される予定です。
日本政府は東京オリンピックのある2020年までに限定エリアでの自動運転車(レベル4に該当)の走行を目指して法整備等を進めていて、完全自動運転車については2025年中の完成を目指しています。

自動運転車と自動車保険の関係

PC用




自動運転技術の進歩は、自動車保険に大きな影響を与えます。
というのも、自動車保険はドライバーが事故を起こして損害賠償責任を負った時に被害者への補償をすることを主な目的としていますが、自動運転技術の車ではその事故の責任が「運転者」ではなく「システムそのもの」になることが考えられるからです。

レベル2までの自動運転車であれば、運転者の操作が必要であることから事故があった時は基本的には「運転者の責任」となり、現行の自動車保険で対応可能です。しかし、今後商品化が期待される「レベル3以上の自動運転車」であると、運転の主体は自動運転システムとなるため、事故の責任は「システム」となることもあります。

ドライバーの責任となる事故では通常の自動車保険で対応できますが、システムの責任となる場合は自動車保険ではなくてPL保険(生産物賠償責任保険)で対応できるように検討しているようです。

また現行の自動車保険でも、今後の自動運転車の普及を見越して「被害者救済費用等特約」の販売を始めました。この特約は、交通事故により運転者が損害賠償責任を負わない場合でも被害者の損害に対する費用が補償されるものです。
交通事故の責任が運転者・システムどちらのケースであったとしても被害者の補償がされるので安心でしょう。

今後人間の操作がほぼ必要なくなるレベル4以上の自動運転車が主流となった場合、自動車保険自体の役割は少なくなるでしょう。
ただ人による操作が必要なくなっても、日頃のメンテナンス不足により事故(センサーに異物が付着していて反応しなかった等)を起こした場合、運転者の責任が問われることが考えられるので、完全に無くなることはないと考えます。

自動車保険を販売する保険会社の経営にはどのような影響があるか

自動運転技術が進歩すると、自動車保険の役割も小さくなることが予想されます。
現在のところ自動車保険は各損害保険会社の主力商品であり収入の6割が自動車保険となっていますから、保険会社は「自動車保険の減収」という影響を大きく受けそうです。

さらに、自動運転技術は今まで想定し得なかった新しいリスクを生みます。
自動車の運転者が事故の責任を負わないケース以外にも、ハッキングにより自動車が事故を起こすケースも考えられます。他にも小さな子供などが自動運転のシステムでは予測できない動きをして事故が起きた場合に、過失はどちらにあるのか決めるのが難しいようなケースも考えられます。
そういった場合に損害保険会社が迅速に対応できるか、そのための体制・組織作りも今後の課題となってきます。