FP・識者の保険コラムExpart Column

訪日外国人の医療費不払いが増加。対策は海外旅行保険への加入。

コロナ禍が落ち着いてきて訪日外国人旅行者がコロナ禍前の水準まで回復してきましたが、近年問題となっているのが「訪日外国人旅行者による医療費の踏み倒し」です。

旅行などで日本を訪れた外国人が、病気やケガにより日本で病院を受診したにも関わらず、医療費を支払わずに自国へ帰ってしまう事例が後を絶ちません。

【朝日新聞ニュースより】
訪日外国人、医療費未払いの懸念 値切られることも「日常茶飯事」(朝日新聞)

1年間で2千件を超える外国人患者を受け入れる聖路加国際病院(東京)では、訪日外国人による医療費の未払いが年間30件ほど生じている。

外国人旅行者の4%が日本の病院を受診

観光庁が2023年10月~2024年2月にかけて行った「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」によると、訪日旅行中に病気やケガになった訪日外国人旅行者は約4%で、そのうち6割が風邪や熱の症状でした。
訪日にあたって民間医療保険に加入したと回答した割合は約73%でした。

「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」より

一方で、未加入者の未加入理由は「認識していなかった」「必要性を感じなかった」と回答した人が多く、それ以外にも「滞在日数が短いから」「体力に自信があるから」といった回答も見られました。
急な体調不良や事故によるケガなど、滞在日数や自身の体力に関わらず、病院にかからなければならない事態に遭遇することが考えられます。

「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」より

診察・治療を受けたのに、医療費を払わずに帰国

日本の健康保険に加入している人であれば、基本的に医療費の自己負担金額は3割以下の低価格で済みます。
しかし、日本の健康保険証を持たない外国人旅行者が日本で病院を受診すると、自由診療となるため医療費が全額自己負担となります。

出発前に自国で海外旅行保険に加入していれば、病院から保険会社に請求することができますが、保険に入らずに訪日した人の場合は、支払いに応じることなく踏み倒されてしまうことが多いそうです。
また、大怪我や重病のため帰国するために医師の付き添いが必要になると、医療費と合わせて1,000万円近い費用がかかった事例もあります

訪日外国人の医療費については、患者の滞在中に支払ってもらうよう病院側から働きかけているといいますが、支払いに応じずに帰国されてしまうと帰国後に支払ってもらうことは困難です。

その未払いとなった医療費は病院が負担しているのが現状です。
今後このような不払いが積み重なると病院だけでは抱えきれず、病院の倒産にもつながりかねません。

最終的には日本国民が支払う税金や健康保険料の負担が増えてしまうことにつながります。

日本政府が行っている対策

日本政府では、医療費を払わないまま帰国した外国人に対して、次回以降の入国審査を厳格に行う取り扱いが始まっています。
この制度では、訪日外国人による医療費の不払い情報を病院から厚生労働省へ報告し、集約した情報は出入国在留管理庁へ共有され、次回以降の入国審査が厳格化することにしています。

つまり医療費の支払いに応じない外国人は、次からの日本入国が困難になるという仕組みです。
(しかし医療費を踏み倒して帰国するくらいですから、もう日本に再入国するつもりはそもそもないのかもしれません。)

また、訪日外国人に対して海外旅行保険への加入推進も行っています。
通常は出発前に自国で加入するのが一般的ですが、実は日本の民間の保険会社からも、外国人が日本に到着してから加入できる「訪日外国人向け海外旅行保険」が販売されていて、日本政府・国土交通省でも推奨しています。

例えば東京海上日動火災保険が提供する「TOKIO OMOTENASHI POLICY」では、入国日から5日以内であれば加入することができます。
医療費や移送費が1,000万円まで補償される内容で、通訳サービス・医療費のキャッシュレス対応交渉などの各種サービスが付帯されています。
7日間のプランであれば保険料は2,960円です。

日本政府では観光局のWebサイトや空港に掲示するポスターなどを通じて、訪日外国人観光客に対して海外旅行保険への加入を推進していますが、今後もさらなる啓蒙が必要です。

■追記(2024年8月5日)
この記事の英語版も公開しました。
Non-payment of medical expenses by foreign visitors to Japan is increasing. The countermeasure is to buy travel insurance.