全身性エリテマトーデス(SLE)の治療費用は年間いくら?難病患者が使える支援制度も解説
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus, SLE)は、厚生労働省が定める指定難病の一つであり、長期にわたる治療が必要です。
自己免疫疾患であるSLEの治療は、症状や重症度によって使用する薬が大きく変わり、それに伴い医療費も変動します。
治療が長期にわたるため、「年間でどれくらいの費用がかかるのか?」と不安に感じる方も少なくありません。
この記事では、SLEの治療にかかる年間のおおよその費用、費用負担を大幅に軽減する公的支援制度、そして民間医療保険の活用について詳しく解説します。
全身性エリテマトーデス(SLE)の年間治療費の目安
全身性エリテマトーデス(以降、SLE)の治療費用は、病状の重さや、どの臓器に炎症が出ているかによって、使用する薬剤が大きく変わり、年間費用も大きく異なります。
治療の多くは、病状をコントロールするための薬物療法が中心ですが、重症化すると入院や特殊な治療が必要となり、費用が一時的に高額になります。
薬物療法にかかる年間費用の目安
プラケニル(ヒドロキシクロロキン)は、欧米のSLE治療ガイドラインで標準的な治療薬として位置付けられており、免疫抑制薬のセルセプト(ミコフェノール酸モフェチル)やプログラフ(タクロリムス)も、病状に応じて使用されます。
【治療段階別の主な使用薬剤と年間費用(3割負担後)】
<軽症・維持期>
・プラケニル:1~2錠/日
・少量ステロイド:1~2錠/日
年間:7~12万円(月額2,500~5,000円)
<中等症>
・免疫抑制薬(セルセプト/プログラフ)追加
・中用量ステロイド
・定期検査の増加
年間:11~24万円(月額4,000~10,000円)
<重症・難治例>
・生物学的製剤(ベンリスタ/サフネロー)
・免疫抑制薬
・ステロイド
年間:42~60万円(月額3万5,000~5万円)
※上記金額は、診察費(再診料)、血液検査、尿検査などを含めた概算です。
重症・難治例に使用される生物学的製剤は高額ですが、既存治療で効果不十分なSLEに対して高い効果が期待されています。
ベンリスタ(ベリムマブ)皮下注200mgは、薬価24,994円で週1回投与、3割負担で年間約39万円となります。サフネロー(アニフロルマブ)点滴静注300mgは、薬価96,068円で4週ごと投与、3割負担で年間約37万円となります。
なお、ここで紹介している金額は、難病医療費助成制度を利用しない場合の概算です。
SLEは指定難病であり、認定を受ければ月額の自己負担上限(所得に応じて2,500円~30,000円)が設定されます。詳しくは「高額な医療費を軽減する公的支援制度」の章で解説します。
入院・合併症治療にかかる費用
SLEでは、病状の悪化時、ループス腎炎、中枢神経症状などの際に入院治療が必要となることがあります。
重症度が高い場合、点滴で大量のステロイドを投与するパルス療法が3日間行われ、その後内服のステロイドに切り替えます。
入院期間は、軽症の場合は1週間程度、合併症を伴う場合は2~3週間、重症例では1ヶ月以上になることもあります。
ステロイドパルス療法のみで約4万円、2週間程度の入院では検査や薬剤費を含めて3割負担で15~50万円程度(重症度により異なる)の費用が発生します。
これらの高額な医療費に対して、SLE患者は公的支援制度を利用することが前提となります。
高額な医療費を軽減する公的支援制度
SLEの治療費が高額になっても、公的支援制度が利用できる場合があります。
ここでは、指定難病医療費助成制度と一般的な医療費負担を軽減する高額療養費制度の2つを紹介します。
高額療養費制度との併用について
医療費が高額になった場合、高額療養費制度により、月額の自己負担が所得に応じた上限額(例:年収約370~770万円で約8万円)に抑えられます。
ただし、SLE患者が難病医療費助成制度の認定を受けている場合は、より低い月額上限(2,500円~30,000円)が優先的に適用されます。
指定難病医療費助成制度とは?
SLEは指定難病のため、一定の要件を満たせば医療費助成の対象になります。
【助成対象となる要件】
・重症度分類で一定以上の基準を満たす場合
・軽症高額該当:月の医療費総額が33,330円を超える月が年間3回以上ある場合
【助成の内容】
自己負担が2割に軽減され、月の自己負担上限額が所得に応じて設定されます。
【申請方法】
難病指定医から診断書を受け取り、都道府県・指定都市の窓口で申請します。
審査通過後に交付される特定医療費受給者証を指定医療機関で提示すれば、助成を受けられます。
民間医療保険の活用:SLEの治療費にどう備える?
SLEの治療費は、公的支援制度によって大きく軽減されますが、それらがカバーできない費用や、長期療養による収入減リスクへの備えは、自身で行わなければなりません。
ここでは、さらに経済的な安心を確保するために、民間医療保険をどのように活用すべきかを解説します。
公的支援ではまかなえない費用とは
難病医療費助成制度や高額療養費制度といった公的支援は、SLEの治療費の大部分をカバーしてくれますが、費用の中には原則として助成の対象外となる項目も存在します。
例えば、入院時の差額ベッド代(個室代)や食事代の一部は自己負担です。
さらに、治療の長期化に伴い、休職や退職によって収入が減った際の生活費も、公的医療保険制度の範囲外となります。
このような公的支援だけではまかなえない費用や、収入減のリスクに備えるために、民間医療保険が有効な選択肢となります。
民間の医療保険であれば、手術や入院の他、付加されている特約によっては通院や差額ベッド費用まで給付されるため経済的な負担が軽減できるでしょう。
SLE患者が新規加入する際の注意点
SLEが発症してからでは、民間の医療保険の加入はとても難しくなります。
仮に加入できたとしても、特定部位の疾病については保障の対象外とする部位不担保などの条件付き契約になる可能性もあります。
一般的な医療保険の加入が難しいときは、加入時の項目が少ない告知緩和型医療保険が1つの選択肢になるでしょう。
告知緩和型医療保険は、通常の医療保険に比べて保険料が高くなったり、加入後一定期間は保障が削減されるのが一般的です。
加入する際は、事前に加入条件や保障内容を十分確認してください。
まとめ
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療費は高額ですが、指定難病助成と高額療養費制度で自己負担は大きく軽減されます。
公的支援でカバーできない差額ベッド代や収入減には民間医療保険が有効ですが、SLE発症後は医療保険加入が難しくなり、告知緩和型医療保険への加入を検討せざるを得ない可能性があります。
SLEにかかる医療費の不安を軽減するには、公的制度や民間の医療保険のどちらも相談ができるFPや専門家を活用しましょう。