海外療養費制度の基本と、海外旅行保険との併用について

株式会社ウィズハート
代表 木代晃輔

株式会社ウィズハート
代表 木代晃輔
株式会社ウィズハートの木代(きしろ)です。
私は海外旅行保険の仕事を長くしておりますが、海外療養費制度についてのご質問やご相談をよくお受けします。
海外療養費制度は海外で支払った医療費の一部を還付してくれる便利な制度です。
しかし
・申請には所定の書類や領収書の原本などが必要
・治療費の全額が還付されるわけではない
といった点に注意が必要です。
そこで今回は、
・海外療養費制度の基本
・還付金の計算方法
・支払い事例
・海外旅行保険と併用する方法
について解説します。
海外療養費制度の基本
海外療養費制度とは、「海外旅行や海外赴任などで急な病気や事故の怪我などにより現地で病院にかかった時に、日本で加入している健保組合に申請をすることで、医療費の一部が還付される制度」です。
日本の公的医療保険での制度ですので、還付金申請をするのは、日本で加入されている健保組合(国保を含む)となります。
そのため、具体的な申請手続きや書類などは組合ごとのルールに従いますが、制度の概要や仕組みは共通しています。
【還付金請求の流れ】
●海外の病院で治療費の支払いをする
↓
●日本で加入している健保組合に、現地医療機関の医師がサインした書類や領収書原本などを送付して申請する
↓
●健保組合が審査する
↓
●支払われる還付金が決定し、健保組合から還付金が振込される
ただし、次の章で詳しく解説する通り、海外療養費制度では海外で支払った治療費の一部しか還付されません。
また、
・日本国内で保険診療として認められている医療行為に限る
・治療目的で海外渡航した場合は対象外
といった点にも注意が必要です。
海外療養費制度について詳しい手続きなどを知りたい方は、加入している健保組合のホームページや案内を参照してください。
■ 協会けんぽのホームページ
全国健康保険協会|こんな時に健保 |海外で急な病気にかかって治療を受けたとき
還付金額の計算方法
海外療養費制度は便利な制度ですが、支払った治療費の一部しか還付されません。
弊社にご相談されたお客様のなかにも、「健保の自己負担割合は通常3割なので、治療費のうち7割程度は還付されるだろう」と思っている方がいらっしゃいますが、そうとは限りません。
それどころか、実際に支払った治療費の2~3割程度しか返ってこなかった というケースもあります。
海外療養費制度の還付金額は以下の方法で計算されます。
日本国内の医療機関等で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)から、自己負担相当額(患者負担分)を差し引いた額
引用元:全国健康保険協会|海外療養費制度
つまり、海外療養費制度では、基準となる治療費が、海外で実際に支払った金額ではなく、日本で同等の治療を受けた際にかかる金額となっているのです。
このため、特に欧米などの日本と比べて医療費が高額な国で治療を受けた場合には、支払った金額に対してかなり小さな割合でしか還付金が支払われないケースが多いのです。
医療費が高額な国ですと、数回の通院や検査1回だけでも数万円~数十万円の医療費になることも珍しくありません。
大きな病気やケガになると、治療費だけで数百万円~数千万円にもなります。
海外療養費制度は便利な制度ですが、
・海外で支払った治療費の一部しか還付されないこと
・国や診療内容によっては還付金の割合がかなり小さくなってしまう
ことに注意しましょう。
このような事態に備えるには、渡航前に民間の海外旅行保険に加入しておくことが大切です。
海外療養費制度に還付請求したお客様事例
弊社のお客様で、実際に海外療養費制度を申請して還付金の支給を受けられた方に、インタビューしました。
具体的な治療費と支給金額の内訳、申請手続きの方法や気をつけるべきポイントなど解説していますので、ぜひこちらも参考にしてください。
海外療養費制度への還付金請求の事例インタビュー
海外療養費制度と海外旅行保険は併用できる!
あまり知られていないことですが、海外旅行保険に加入しておけば海外療養費制度と海外旅行保険の両方に請求が可能です。
「還付金と保険金を二重で請求できるの?」と意外に思われるのかもしれませんが、海外療養費制度は民間の旅行保険とは併給調整を行わない仕組みになっているのです。
よって、加入している健保組合への海外療養費制度の申請と保険会社への海外旅行保険の保険金請求を同時に行うことが可能です。
ただし、海外療養費制度制度と海外旅行保険を同時に申請・請求する場合には以下の点に注意してください。
・海外療養費制度の申請には領収書の原本の提出が必要
・海外現地で医療費を自分で支払い領収書をもらっていることが前提
・海外療養費制度の申請期限は2年間
海外療養費制度の申請には領収証原本の提出が必要なので、同時に申請・請求する場合には、保険会社には領収証コピーを提出するか、または請求終了後に原本を返却してもらい、それをもって海外療養費制度の還付金請求を行うようにすると良いでしょう。
具体的な手順は、海外療養費制度と海外旅行保険の両方に詳しい専門家・保険代理店に相談されてみてください。
なお、海外療養費制度は海外現地で医療費を自分で支払い領収書をもらっていることが前提となるため、海外旅行保険の治療費キャッシュレスサービスを利用した場合、請求が難しくなる可能性が高くなります。
最後に、海外療養費制度の申請期限は2年間となっており、一般的な海外旅行保険の請求期限3年と比べて短いため、期限切れにならないように注意しましょう。
(民間の海外旅行保険も事故の通知期限はもっと早い場合もありますので、よくルールや約款を確認してください)

この記事の執筆者:木代 晃輔
株式会社ウィズハート 代表取締役
神奈川県出身。大学卒業後に損害保険会社で勤務。
株式会社ウィズハートを創業し、保険相談サイト「保険ウィズ」やFP相談サイトを開設。
損保勤務時は損害保険の開発業務に携わり、現在は海外旅行保険や個人賠償責任保険のプロとしても活動中。