現役の糖尿病療養指導士が書く糖尿病コラムdiabetes-column

糖尿病網膜症の治療にかかる費用と備え方

公開日:2021/10/18

糖尿病網膜症の治療費
糖尿病の併症の1つである糖尿病網膜症。発症すると、治療は生涯にわたります。
進行すると月に1回の受診だけでなく、レーザー治療や手術が必要になるちょっと厄介な病気です。

通院・治療にはどうしても「お金」が必要です
では、糖尿病網膜症の通院や治療には、どれくらいのお金がかかるのでしょう。

今回は「糖尿病網膜症の治療費はいくらかかるの?」をテーマに、現役看護師で糖尿病療養指導士の小田あかりがわかりやすく解説していきます。


現役看護師 小田あかり

この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり

看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など

糖尿病網膜症を復習しよう

糖尿病網膜症は、目の奥の網膜の血管の血流が悪くなったり、血管にこぶができたり、血管が破れたり…と、最悪の場合には失明する危険がある病気です。

代表的な糖尿病網膜症の原因は以下になります。
・長く糖尿病にかかっている
・血糖、HbA1cが高い
・人から介助が必要になるほど重度な低血糖をくりかえす
・糖尿病性腎症や虚血性心疾患の既往がある

糖尿病網膜症について、詳しくは前回書いた以下の記事を参照ください。
■ 参考記事
現役看護師が解説する『3分でわかる糖尿病網膜症の基本』

病状によって必要な治療が違う糖尿病網膜症

糖尿病網膜症は大きく分けて3段階で病気が進行していきます。
段階ごとに通院頻度や治療が異なります。

段階その1 単純糖尿病網膜症

網膜に小さな出血や、毛細血管の瘤ができますが、血糖値が安定すると自然によくなる可能性がある時期です。
視力は全く影響がなく、自覚症状もありません。
3~6か月に1度の受診が推奨されています。

段階その2 増殖前網膜症

血管が詰まったり、流れが悪くなることで目の血管が頑張って栄養や酸素を供給しようと「新生血管」を伸ばそうとする時期です。
まだ視力には影響がありませんが、危険な状態の1歩手前です。1~2か月に1度の受診が推奨されています。

段階その3 増殖網膜症

新生血管が増える時期ですが、増えるだけでは自覚症状はありません。新生血管は細くてもろいので、破れて硝子体出血をおこしやすくなります。
硝子体出血や網膜剥離をおこすと急に目の前が暗くなったり、視野が欠けたり、赤いカーテンがかかるような自覚症状があります。2週間~1か月に1度の受診が推奨されています。

糖尿病網膜症の治療にかかる費用

糖尿病網膜症では病状に応じて、2週間~6か月ごとの通院が必要です。さらに重症化するとさまざまな治療を受けなくてはなりません。

ここでは毎回の「通院費」だけでなく、「レーザー治療」や「手術」など、さまざまな場面を想定し、必要となる費用について解説していきます。

通院費

実はあなどれないのが、通院費です。

外来を初めて受診したときにかかるのが「初診料」で、3割負担の方では850円を支払うことになります。
2回目に以降に受診したときには「再診料」がかかります。再診料は3割負担の方で720円です。

初診料や再診料は診察にかかる費用になりますので、検査や処置、内服薬や点眼薬の処方があれば追加で費用がかかります。

特に、2週間から1か月おきに受診が推奨される「増殖網膜症」の患者さんは、診察だけでなく眼底検査も行います。
眼底検査は3割負担の方で340円支払うため、1回の診察だけで1000円以上の診察料がかかることになります。頻回・長期にわたる受診が、患者さんの大きな負担となる可能性があるのです。

レーザー治療

レーザー治療は目の腫れた血管や、瘤になった血管にレーザーをあてることで、異常な血管の増殖を抑える治療です。
網膜症の悪化・進行をおさえる効果があります。

1度だけでは効果が少ない場合も多く、複数回の治療が必要になる患者さんもいます。

自己負担割合 医療費
1割負担の場合 片眼10,000~16,000円程度
3割負担の場合 片眼30,000~48,000円程度

手術

糖尿病網膜症が進行すると手術を行う患者さんもいます。
糖尿病による眼の中の出血や、網膜剥離などを合併した増殖糖尿病網膜症や糖尿病黄斑浮腫に対して行われる治療方法で、手術で出血を取り除いたり、網膜剥離を治すことができます。
手術の方法や病名によって医療費は異なりますが、一般的な自己負担額は以下の通りです。

自己負担割合 医療費
1割負担の場合 片眼40,000~50,000円程度
3割負担の場合 片眼120,000~150,000円程度

糖尿病網膜症の治療費の負担をへらす方法 3選

糖尿病網膜症の治療費を抑えるには

医療費が心配な糖尿病患者さんに、お金の負担を減らす3つの方法をご紹介します。

日頃からの予防。血糖コントロールをよくする

糖尿病網膜症は糖尿病の合併症の1つです。血糖コントロールがよくないと、糖尿病網膜症が悪化しやすいことがわかっています。

血糖値・HbA1cを安定させると、糖尿病網膜症だけでなくその他の糖尿病合併症を予防できます。
糖尿病合併症を発症しても、重症化を防ぐことができれば、入院や手術も避けることができ、結果としてお金の負担を減らすことができるのです。

定期的な眼科受診を続ける

定期的な眼科受診は診察代や検査代などがかかり、自己負担が多いように感じるかもしれません。
しかし、定期的な受診は異常の早期につながります。適切な時期に治療・処置を行うことで、糖尿病網膜症の重症化を防ぐことが期待できます。

重症化を予防できれば、レーザー治療や手術を行う必要はありませんし、失明を避けることができるかもしれません。
自覚症状がほとんどない糖尿病網膜症ですが、医師の指示を守って定期的な受診を続けましょう。

医療保険に加入しておく

糖尿病患者さんの医療費の自己負担を減らす方法として有名なのは、健康保険の「高額医療費制度」です。

高額医療費制度は、毎月1日~月末までにかかった医療費の自己負担が高額になった場合、一定の金額を超えた分があとから払い戻される制度です。

ただ治療が長期化すれば健康保険だけではきつくなることもあります。
そのため将来的な大きな出費に備えて、民間保険会社の医療保険を活用するのも良いです。

一般的な医療保険なら、「病気の治療」であれば入院・手術で給付金をうけとることができます。
以下はある保険会社が糖尿病網膜症の治療に保険金を支払った事例で、治療や手術で仕事に影響が出て収入が減ってしまう恐れのある方には特に有効です。

糖尿病網膜症のため、目のレーザー手術と血糖値コントロールで10日入院
手術1回あたり:5万円
入院1日あたり:5,000円×10日間 = 5万円

受け取った保険金合計:10万円

ご自身の医療保険が糖尿病の治療で給付の対象になるか、ぜひ一度確認してみてください。
医療保険によっては生命保険料控除の制度により税金が還付される優遇も受けられます。

■ 参考記事
~糖尿病をお持ちの方へ~ 糖尿病の悪化や合併症に備える医療保険・生命保険の比較

まとめ

糖尿病網膜症は、自覚症状がなくとも定期的に受診する必要があるため、患者さんの心理的・金銭的負担が大きくなります。
血糖コントロールをよくして、糖尿病網膜症を発症しない・悪化させないことが、医療費を減らす一番のポイントです。

血糖値やHbA1cが高く悩んでいる患者さんは、糖尿病の医師や看護師に相談してみてください。
医師・看護師・栄養士・薬剤師などさまざまなスタッフのサポートを受けながら、一人ひとりにあった食事療法・運動療法・薬物療法を続けることで、値が改善することが期待できます。

血糖値・HbA1cを目標範囲内にキープし、糖尿病網膜症の発症・重症化予防を続け、治療費の負担を減らしていきましょう。

参考資料

(1) 糖尿病で失明しないために(公益社団法人 日本眼科医会)

現役看護師 小田あかり

この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり

看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など