【医師・看護師執筆】糖尿病の方も妊娠できる!妊娠~出産で気を付けてほしいこと。
最終更新日:2022/03/01
「糖尿病だと妊娠できないんですか?」
このような質問を受けることがあります。インターネット上にはさまざまな情報があふれています。なかには誤った情報も多く、妊娠や出産を不安に思う方がたくさんいらっしゃいます。
医学的には、糖尿病があっても妊娠・出産は可能です。
ただし、糖尿病を持つ方には、妊娠前から注意すべきポイントがいくつかあります。
今回は妊娠前~出産後までに知っていてほしいこと、注意してほしいことを中心に、糖尿病専門医の舞浜医師と、糖尿病療養指導士の小田あかりがわかりやすく解説していきます。
この記事の目次
糖尿病がもたらす妊娠・出産、赤ちゃんへの影響
糖尿病は、ママや赤ちゃんにさまざまな影響を与える可能性があります。
ここからは妊娠前に知っていてほしい、糖尿病を持つママの妊娠・出産、赤ちゃんへの影響を、糖尿病専門医が解説します。
「糖尿病の方の妊娠」はハイリスク
妊娠・出産がママに与える影響は、以下の2つがあります。
- 糖尿病の合併症が進行する
- 出産に関する合併症のリスクが上がる
妊娠中に悪化しやすい代表的な糖尿病の合併症は、「糖尿病網膜症」と「糖尿病腎症」です。
これらは、妊娠をきっかけにホルモンバランスが変化する、血糖コントロールが変動することで悪化しやすいことがわかっています。
そのほかにも、以下のような合併症のリスクが高くなる可能性があります。
■ 妊娠初期の血糖のコントロールが悪いと ⇒ 流産や早産
■ 妊娠中期以降の血糖コントロールが悪いと ⇒ 難産や高血圧
赤ちゃんへの影響は成長期まで続く危険性も!?
糖尿病は赤ちゃんにも大きな影響を与える可能性があり、例えば妊娠初期に血糖コントロールが悪いと、先天奇形の確率が高くなります。
そのほかに、出生体重が4000gを超える「巨大児」や、おなかの中での発育が遅れてしまう「子宮内発育遅延」などがおこるリスクが高くなります。
最近の研究では、赤ちゃんが将来「糖尿病」や「肥満」の発症リスクが高くなることもわかってきています。
正しい知識で妊娠・出産をむかえよう
ママや赤ちゃんに与える影響を最小限にするには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか?
いちばん大切なことは「正しい知識を持つ」ことです。
ここからは、妊娠前・妊娠中・出産・出産後の4段階にわけて、糖尿病を持つママに知っていてほしい知識を説明していきます。
【妊娠前】血糖コントロールを少しでも良好に!
ママや赤ちゃんへの影響を最小限にするためには、血糖コントロールをより良くしたタイミングでの妊娠がよいとされています。
妊娠初期の血糖コントロールが悪いと、奇形や流産などの確率が高くなることがわかっています。
(末原節代氏の「糖代謝異常妊娠の頻度と先天異常に関する検討. 糖尿病と妊娠2010」より)
具体的な確率は以下です。
血糖コントロール | 悪い | 良い |
奇形発症率 | 17.4% | 5.4% |
血糖コントロールがよい状態で妊娠するために、糖尿病を持つママの妊娠・出産には「計画妊娠」をおすすめしています。
計画妊娠では、以下のポイントが重要です。
- HbA1c 7%以下での血糖コントロールを目指す
- 合併症がないかチェックする
- 合併症がある場合は治療する
- 血糖コントロールが数か月安定し、医師の許可を得てから受胎する
どれも簡単なことではなく、妊娠や出産には家族の協力が必要になってきます。
妊娠を考えている方は、まずは主治医と相談し、計画妊娠に向けた準備をすすめましょう。
当サイトでは、現役産婦人科医が「妊娠、不妊症と糖尿病」について解説しています。ぜひ、読んでみてください。
■参考記事
現役産婦人科医が解説する「妊娠・不妊症と糖尿病」
【妊娠中】インスリン注射と食事療法が血糖コントロールの要
次は、妊娠中の生活の注意事項についてです。
妊娠中の血糖管理、食事療法を中心に見ていきましょう。
血糖コントロールには「インスリン」を使用する
妊娠中の血糖コントロールは、飲み薬ではなく「インスリン注射」が用いられます。
その理由は、飲み薬が赤ちゃんへ与える影響が明らかになっていないためです。
妊娠中は以下を目標に、血糖コントロールを行います。
□空腹時血糖値 95mg/dL未満
□食後1時間値 140mg/dL未満
□食後2時間値 120mg/dL未満
現在、糖尿病の治療を行っている方は「厳しい目標だなぁ…」と感じるかもしれません。
たしかにこの血糖コントロールを守ろうとすると、食事・運動・インスリンの管理を徹底的に行う必要があり、とても大変です。
しかし、ママと赤ちゃんの命を守り、障害や合併症を引き起こさないためには、この厳しいと感じる血糖コントロールを行うことが重要なのです。
食事摂取量や運動量、インスリン投与量で血糖値がどのように変動するかは、患者さん一人一人で異なります。
血糖測定回数も多くなりますが、血糖測定器も進歩し、より負担感を感じにくい機器が増えています。
主治医と相談し、安定して血糖コントロールを続けられる方法を探していきましょう。
食事療法はオーダーメイド
妊娠すると赤ちゃんの分の摂取カロリーを増やす必要があり、その際のポイントが3つあります。
- ママの体重が増えすぎない
- 赤ちゃんが順調に成長している
- 血糖コントロールが安定する
この3つに注意しながら、カロリー量や食事のタイミングを調節します。
糖尿病を持つママの食事療法はオーダーメイドで、一人一人で異なっています。
食事療法に困ったときには主治医や管理栄養士、看護師・助産師と相談しながら、ご自身にあった方法を取り入れていきましょう。
つわりで食事がとれないときは要注意!
つわりで食事が取れなくなってしまう時もあるかもしれません。
食事が取れないときや水分が取れない状態を、シックデイと呼んでいて、この状態が続くときは入院が必要になることもあります。
無理をせず、早めに主治医に相談しましょう。
シックデイについて、詳しくはこちらの記事を参照ください。
■参考記事
病気になると血糖値が変動するシックデイとその対策 | 保険ウィズ
【出産】糖尿病でも出産方法は変わらない
出産について知っておきたい、2つのポイントがあります。
出産方法は経膣分娩が基本
基本の出産方法は経膣分娩ですが、以下の場合は帝王切開を選択します。
- 赤ちゃんが大きく難産になる可能性がある
- 糖尿病性網膜症が活動的で、分娩により悪化する可能性がある
経膣分娩か帝王切開かは、妊娠中の経過とママ・赤ちゃんの状態によって異なります。ママと赤ちゃんにとってよりよい分娩方法を、主治医と相談していきましょう。
出産後のインスリン投与量には注意が必要!
出産後はインスリンの必要量が急激に減少します。
その理由は、胎盤が体の外に出ることで、インスリンが効きやすくなるためです。
出産後は低血糖にならないように「妊娠前のインスリン量」に戻しましょう。
【出産後】赤ちゃんへの遺伝を心配し過ぎない
「糖尿病は遺伝する病気」として知られていますから、赤ちゃんに遺伝しないか不安に思われることもあるでしょう。
しかし、糖尿病は授乳や日常生活でうつることはありません。安心してくださいね。
母乳をあげる際の注意点
母乳は赤ちゃんにとって以下のメリットがあります。
- 赤ちゃんの糖尿病発症予防になるという説がある
- 母乳を飲んだ赤ちゃんの方が肥満の発生が少なくなる
ただ、母乳をあげるうえで、一つだけ注意したいことがあります。
また、母乳の量が十分でない方もいらっしゃると思います。
母乳が足りない場合には、小児科医や助産師さんと相談して、人工ミルクを使用してください。
人工ミルクだから糖尿病になるわけではないため、安心して使用してくださいね。
糖尿病のタイプによっては遺伝することもある
親が糖尿病だから赤ちゃんも必ず糖尿病になるわけではありません。
遺伝子の変異など一部の糖尿病では、遺伝する可能性がありますが、確率は明らかになっていません。
ただ、妊娠中に高血糖が続くと、赤ちゃんが将来糖尿病になるリスクが高くなるといわれています。
糖尿病は遺伝子レベルの変異のほかに、肥満や食事、運動量や睡眠などさまざまな要因があわさって、発症する病気です。
体を良く動かす、甘いものや脂っこいものを食べ過ぎないようにするなど、健康的な生活習慣を身につけていくことが、将来の糖尿病のリスクを下げるために有効な方法です。
遺伝を過度に心配しすぎないようにするようにしましょう。
「妊娠したい!」思いに寄り添う。看護師のかかわり
ネット上には「妊娠と糖尿病」について、情報があふれています。
なかには医学的な根拠のない情報や、患者さんが傷つくような情報もたくさんあります。
妊娠・出産にまつわる悩みを、医師に相談しにくい患者さんも少なくありません。
ここからは、糖尿病療養指導士で看護師である小田が、普段どのようなかかわりを行っているか紹介していきます。
大切なのは「正しい知識をもつ」こと
思春期以降の糖尿病患者さんには、「妊娠と糖尿病」について正しい情報を伝えています。
■糖尿病があっても、結婚・妊娠・出産・子育てをしている人はたくさんいる
■糖尿病だから、妊娠できないことはない
■糖尿病だから、奇形や先天異常の赤ちゃんが産まれるわけではない
■糖尿病が赤ちゃんに100%遺伝するわけではない
■血糖管理や糖尿病合併症によっては、妊娠が許可できない場合がある
■妊娠する場合は、計画妊娠がおすすめである
正しい知識があることで、一人で悩む時間を減らせたり、諦めてしまったり…そんなことが少しでも減ればと思いこのようなお話をしています。
一人ひとりに寄り添ったかかわりを大切に
患者さん一人ひとり、抱えている悩みや状況はことなります。
看護師ができることは、あまり多くはありません。
それでも「病院に行けば相談できる」、「小田さんなら話を聞いてくれる」、そんな存在でいたいと、常に心がけています。
みなさんも、何かあれば医療者に相談してください。
そして、医療者のみなさんは、患者さんが相談しやすい関わりや、雰囲気作りを心がけてくれることを願っています。
妊娠異常や出産異常に医療保険での備えを
ここまで妊娠・出産の注意点をメインに書いてきましたが、どんなに気を付けていても妊娠異常や出産異常は起きてしまう時はあります。
ですが、そのような事態になったとしてもそれは決してあなたのせいではありません。
妊娠・出産が命がけというのは今も昔も変わらないことで、一定数の人はどうしても異常が見つかってしまうものなのです。
ただ、妊娠中の入院は中長期化しやすいですし、糖尿病をお持ちの方は特にその可能性が高まります。
長い人だと3か月~4か月入院してしまうことも決して稀ではありません。
長く入院すればそれだけ医療費用が多くかかってくるのはもちろんのこと、仕事を休んだり家族のお見舞いなどでお金は大きく減ってしまいます。
医療保険にすでに加入されている方なら良いのですが、そうでない方は今からの加入もぜひ検討していただきたいです。
糖尿病の妊婦さんが入れる保険はかなり限られますが、月額保険料も2,000円~3,000円くらいで加入でき、それで数十万円の負担に備えられるのです
そして保険の大きなメリットとして
- 「何かおかしい」と思ったときにお金のことを気にせずすぐに病院に診てもらえる
- もし入院すると不安や苦労が山ほど出てきます。保険があれば少なくともお金の心配だけはしないで済むので、妊婦さんの精神的負担の軽減に役立つ
があります。
安心できる妊娠生活・出産への備えの1つの方法として、保険の活用は有効だと思います。
■ 参考
糖尿病をお持ちの妊婦さんも加入できる医療保険の比較
まとめ
今回は糖尿病を持つ方の、妊娠・出産の注意点について医師と看護師の視点から解説しました。
糖尿病があっても妊娠は可能ですが、非糖尿病の方よりもより慎重な管理が必要です。
赤ちゃんの奇形のリスクや、糖尿病の遺伝の可能性など、不安や悩みが尽きないかもしれません。
一つひとつ問題を解決し、より良い状態で妊娠・出産にのぞむための、医療者は強力なサポーターになってくれるでしょう。ぜひ、身近な医療者に相談してくださいね。
参考資料
・糖尿病診療ガイドライン2019(一般社団法人 日本糖尿病学会)
・糖尿病治療ガイド2020-2021(一般社団法人 日本糖尿病学会)
この記事の執筆者
舞浜太郎医師
糖尿病専門医として多くの方に正しい知識をわかりやすく伝えること、患者ひとりひとりにあったより良い治療をいっしょに見つけることが大切であると考え日々診察しています。
また、糖尿病だけでなく、幅広い内科疾患に関わり担当しています。学会発表などの経験をいかして、正しい知識を多くの方に知っていただくために医療ライターとしても活動しています。
主な所有資格:医師、糖尿病専門医
小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多く担当し、糖尿病患者さんの指導も行っています。多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:看護師、保健師、糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士など