現役の糖尿病療養指導士が書く糖尿病コラムdiabetes-column

糖尿病合併症の治療にはお金がかかる!~虚血性心疾患(心臓病)を例に医療費を解説~

公開日:2021/08/28
最終更新日:2021/09/09

糖尿病の患者さんを担当していて心配なことがあります。
それは、毎日の血糖管理だけではありません。全身に合併症を引き起こす患者さんが多く、入退院を繰り返すこと。最悪の場合、働けなくなってしまうことです。

糖尿病の合併症を起こすとどのくらいの医療費がかかってくるのでしょうか。
合併症の1つである「虚血性心疾患」を例にとって、どのような治療が必要になって医療費がいくらかかるか、私、小田あかり(現役の看護師で糖尿病療養指導士)がわかりやすく解説していきます。

現役看護師 小田あかり

この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり

看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など


糖尿病合併症は全身にあらわれる

糖尿病の合併症は、どこか1カ所だけでなく全身に現れるのが特徴です。
血糖値が高い状態が続くことで血管の壁をもろく・固くしてしまいます。その結果、詰まりやすくなったり、血管が破れやすくなったりするため、全身に合併症が現れます。

特に注意したいのが「えのき」と「しめじ」です。
それぞれが、以下の病気の頭文字をとった語呂合わせになっています。

「えのき」
え 壊疽(えそ)
の 脳卒中
き 虚血性心疾患

「しめじ」
し 糖尿病性神経障害
め 糖尿病性網膜症
じ 糖尿病性腎症

糖尿病合併症の「えのき・しめじ」の詳しくはこちらの記事を参照ください。

■参考
糖尿病の合併症「えのき」と「しめじ」。糖尿病患者が気を付けること。

糖尿病合併症の治療にはお金がかかる!

日本の医療制度は国民皆保険。特段の理由がない限り、医療費は1~3割の自己負担が発生します。

合併症を発症した場合は、「もともとの病気の治療費」にプラスして「合併症の治療費」も必要です。

虚血性心疾患は、非糖尿病患者の3.05倍発症リスクが高いといわれており、繰り返して発症する患者さんも多い合併症です。

今回は発症リスクの高い「虚血性心疾患」の医療費に注目して解説していきます。

虚血性心疾患ってなに?

虚血性心疾患とは「心臓の冠動脈が狭くなったり、詰まったりすることで、心臓に十分な酸素と血液がいきわたらなくなる疾患」です。
その結果、心筋梗塞や狭心症を発症し、全身に重大なダメージを及ぼし、最悪の場合は死亡する可能性があります。

糖尿病患者の心血管疾患への罹患率は年々増えています。
虚血性心疾患の恐ろしいところは、自覚症状がなく静かに病気が進行するということ。症状が現れた場合には、入院や手術などの何らかの医療的処置が必要になることが多いのです。

虚血性心疾患の主な治療方法

虚血性心疾患には大きく分けて3つの治療方法があります。


内服治療
内服治療は虚血性心疾患を治療するのではなく、症状をやわらげる、病気が進行しないようにする目的で行われます。

カテーテル治療
この治療は、足の付け根や腕・手首の血管にカテーテルとよばれる医療用の細く長いチューブを挿入します。造影剤を使いながら心臓のどこの血管が細くなっているかを調べます。

手術
カテーテル治療だけでは血管が広げられない、血流を維持できない場合に行われるのが手術による治療です。一
例として、新しく血管をつなぎなおすバイパス手術を行い、心臓の血流を維持する治療方法があります。

虚血性心疾患の治療費用の相場

内服治療では、薬の種類や1日何回・何錠・何種類服用するのかで金額が変わります。
患者さんが窓口で負担する金額は、1か月分の処方・調剤で2千円~1万円程度が目安です。

カテーテル治療や心臓手術では、日本心臓病財団の資料(*2) によるとカテーテル治療は20~150万円、心臓手術では治療内容によってばらつきがありますが高額な治療だと1000万近い治療費がかかります。

また、全国さまざまな病院がHPで治療費目安を公開しています。
その一例として、松本協立病院が公開している手術費用の一部を参考に自己負担額を解説します。(*3) 

日本では国民皆保険制度および、高額療養費制度により同月内の医療費の自己負担を減免する方法もあり、実際には窓口で支払う金額を減額することもできます。

この高額医療費制度は被保険者の所得によりア~オまで5つの区分に分けられています。
高額療養費制度を申請すれば、心臓手術・カテーテル治療は最大で27万円程度、最低で2.5万円程度まで減額されます。

ただ、これは心臓病の治療にかかるお金だけで、食事や差額ベッド代や追加の検査・治療費は含まれていませんので、実際のお支払いはもう少し高額になることが多いです。

合併症への備えとして有効なこと

このように、糖尿病合併症を発症するとあなたが思っているよりもお金がかかるのです。
さらに注意したいのは糖尿病合併症でおこる虚血性心疾患は、生涯にわたって繰り返して発症する可能性があるということです。

生活習慣の改善や血糖管理を重点的に行わなければ、今よりももっと重篤な合併症を発症する危険性が潜んでいるのです。

対策として出来ることは、日頃からの生活習慣の改善や血糖管理です。
もう1つは万が一の医療費の出費に備えて貯金しておくことや、医療保険等での備えです。

以前は糖尿病の方が加入できる保険はあまりありませんでしたが、最近は様々な保険会社が糖尿病有病者も加入できる保険を販売しています。
比較サイトなどで保険料見積もりをしてみて、検討されてみると良いと思います。

■参考
糖尿病の方が加入できる医療保険・生命保険の比較

まとめ

国民皆保険制度と高額療養費制度を併用することで、自己負担はある程度抑えることができますが、虚血性心疾患の治療には、高額な治療費がかかります。
また繰り返して発症する、後遺症が残る、継続的な内服治療が必要になるなど、虚血性心疾患は生涯にわたってデメリットが多いのです。

さらに糖尿病合併症は、「えのき」「しめじ」のどれか1つだけが発症するのではありません。1つ発症したら他の合併症も「調べていないだけ」「症状が出ていないだけ」「気付いていないだけ」で、静かにあなたの体を蝕んでいるのです。

糖尿病合併症の進行を抑制するためには、「血糖値の管理」がとても大切です。症状が出てからでは進行は抑制できますが、体を元の状態に戻すことはできません。

合併症を予防するには、今からでも遅くありません。
医師や看護師に相談しながら、あなたに合った血糖管理で糖尿病合併症を予防していきたいですね。

引用・参考文献

(1) 虚血性心疾患の治療法 | 社会医療法人財団 石心会 川崎幸病院
(2) 心臓病に対する治療や手術の費用について | 公益財団法人 日本心臓財団
(3) 松本協立病院 HP手術費用

現役看護師 小田あかり

この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり

看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など