糖尿病患者の自宅療養死亡を受けて。看護師が教える新型コロナ対策と予防。
最終更新日:2021/09/09
新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るうようになってから、1年半以上。
「三密を避ける」、「新しい行動様式」のような予防に注力した生活だけでなく、ワクチンの普及・治療方法の確立が希望の光です。
2021年1月に「<新型コロナウイルスと糖尿病>糖尿病療養指導士からのアドバイス」という記事を公開しましたが、糖尿病患者さんを取り巻く状況は当時から変わってきました。
今回は、2021年9月アップデート版として、「現役の看護師が教える新型コロナ対策と予防」と題し、最新の予防・対策情報をお届けします。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など
この記事の目次
治療薬が開発されても「糖尿病患者は重症化しやすい」
8月に内閣府が公表した資料によると、新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、重症化する人の割合は年齢によって差がある事がわかっています。
ニュースで報道されているように、高齢者は高く、若者は低い傾向にあります。
・重症化する人は約1.6%(50歳代以下で0.3%、60歳代以上で8.5%)
・死亡する人は約1.0%(50歳代以下で0.06%、60歳代以上で5.7%)
さらにデルタ株は、従来株よりも1.5倍感染力が強く、重症化しやすいことを忘れてはいけません。(*1)
重症化リスクをあらためて知ろう
「慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、 心血管疾患、肥満、喫煙」の基礎疾患がある人は重症化のリスクが高いことは、みなさんご存知ですよね。
感染症専門医の忽那医師が作成した、「年齢および基礎疾患ごとの新型コロナの重症化リスク」という表があります。(*2)
この表は、18歳~29歳の健康な人のリスクを基準として、どれくらいリスクが高くなるかを表しています。
「糖尿病」があるとリスクは3倍に増え、中高年ではさらに3~4倍に増えます。
つまりこの時点で、基準から9~12倍リスクが高くなります。
さらに、糖尿病患者さんの多くが、高血圧・高脂血症・肥満や心血管系の合併症を抱えています。結果として、重症化リスクがさらに高くなってしまうのです。
日頃から、血糖管理だけでなく生活習慣病の治療をきちんとおこなう、合併症を起こさないようにすることがとても重要なのです。
糖尿病患者さんの自宅療養死からみえること
「都内で50代の男性が自宅療養中に亡くなられた」という報道がありました。糖尿病の基礎疾患があり、新型コロナウイルス感染後に合併症を発症したことが分かっています。
他にも、全国で糖尿病がある患者さんが自宅療養中に状態が悪化し、入院が必要になるケースが報道されています。
以前の記事でもご紹介しましたが、糖尿病患者さんは病気になると血糖値が変動しやすくなります。
「シックデイルール」とよばれ、病状合わせたインスリン投与、食事管理、血糖管理が重要になります。
病気になると血糖値が変動するシックデイとその対策 | 保険ウィズ
都内の自宅療養の男性も、コロナの症状がひどくなり食事がとれず、インスリンを投与していませんでした。
その結果、シックデイによる合併症を発症したことが報道されています。
自分が新型コロナウイルス感染症にかかったらどうしたらいいか、ぜひ考えてみてください。
「もしも」を想定し、シックデイ対応方法を確認しておくことで、シックデイによる合併症の発症・重症化を防ぐことができるのです。
糖尿病とコロナワクチン
糖尿病患者さんが感染や重症化を防ぐ手段の1つとして、ワクチン接種があります。
2021年8月現在、日本ではファイザー社とモデルナ社、限定的ですがアストラゼネカ社のワクチンも接種できるようになりました。各ワクチンの特徴や有効率などは以下になります。
なかでもファイザー製のワクチンは世界中で接種され、その有効性について研究が進んでいます。イスラエルの研究では、感染予防・発症予防に高い効果が期待できることが明らかになっています。
市区町村によっては、アプリで予約を取りやすくする、居住区だけでなく在勤の地域で接種できるなど工夫がなされています。
新型コロナウイルス感染予防、重症化予防のために、糖尿病をお持ちの方には早めにワクチン接種を行って欲しいと思います。
糖尿病患者さんのコロナ感染予防に「今」すぐできること
当院に通院される患者さんでも、新型コロナウイルス感染症に罹患された方も多く、重症化した方も少なくありません。
感染者の増加に伴い全国で「緊急事態宣言」や「蔓延防止措置法」が発令されています。しかし緊急事態宣言への慣れも見られ、個々の感染対策への意識向上に繋がっていないのはとても残念なことです。
毎日の感染対策で、気を付けられることはあるのでしょうか?
今回は「マスク」に注目し、糖尿病患者さんの感染予防について考えていきます。
感染対策を見直そう!マスク選びの注意点
みなさんが日常的に装着しているマスク。薄い布マスクやウレタンマスクを使用していないでしょうか。
布マスク、ウレタンマスクには飛沫を防ぐ効果がとても低いことが実証されていることはご存知でしょうか?
特にウレタンマスクは80-90%飛沫を通すともいわれています。(*3)
ウレタンマスクは一見オシャレですし、息苦しさやムレを感じにくいため、若い人を中心に人気が高くなっています。けれども、飛沫を防ぐ効果はとても低いのです。
私が働く病院でもデルタ株への感染対策目的で、職員だけでなく患者さんもウレタンマスクの使用は禁止となりました。
マスクは素材の違いで、感染予防効果には大きな差があります。同じマスクをするのであれば、感染予防効果が高いものを選ぶようにしてください。
看護師おすすめ「マスクの選び方」
感染予防を目的としてマスクを選ぶのであれば、「不織布マスク」がおすすめです。現役の看護師が特におすすめする「マスクの選び方」をご紹介します。
それは、マスクに記載されている2つのマークを探すこと。
日本のマスクのパッケージには2つの「認定マーク」が印刷されています。1つは民間の認定マークである「全国マスク工業会認定マーク」。もう1つは「JIS規格認定」(*4)です。
これらの認定マークは、一定基準の品質、衛生管理、ウイルスやチリなどの透過性等の性能試験をクリアした製品につけられています。このマークがついたマスクを適切に使用すれば、一定の感染予防が期待できます。
糖尿病患者さんだけでなく、ご家族や大切な方のマスクを選ぶときには、マスクの性能にも注目したいですね。
まとめ
「現役の看護師が教える新型コロナ対策と予防」と題して、コロナの重症化リスク、ワクチンの有効性、今すぐできるコロナ対策をお届けしました。
ワクチン接種が進んできているとはいえ、希望するすべての人には行えていません。
まだしばらくは
・3密の回避
・マスクの適切な着用
・手洗い
が、自分と大切な人を守るためには欠かせないでしょう。
日々の行動、ワクチン接種、そして糖尿病管理が糖尿病患者さんの感染リスクを下げ、重症化予防につながります。
依然先が見えない状況で、不安も多いでしょう。
糖尿病療養指導士からお願いしたいのは、感染対策と毎日の血糖コントロールやHbA1cを目標値に近づけ、少してもリスクを減らすことです。
不安な事、心配なことは医師・看護師にいつでも相談してくださいね。一人ひとりに合った生活習慣の改善、実行可能な治療を一緒に考え実践することで、新型コロナウイルス感染症に負けないようにしていきたいですね
記事執筆にあたっての参考文献・引用
(*1) 内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室「新型コロナウイルス感染症のいまに関する11の知識」(2021年8月版)より
(*2) 忽那賢志さんのtwitterより (@kutsunasatoshi) / Twitter
(*3) 国立大学法人豊橋技術科学大学より
(*4) マスクの日本産業規格(JIS)が制定されました (METI/経済産業省)
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など