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がんの治療中または既往歴のある方の海外渡航マニュアル(保険・薬・生活の注意事項)

投稿日:2025年09月16日

がんの治療中または既往歴のある方の海外渡航マニュアル(保険・薬・生活の注意事項)

がんの治療中または既往歴のある方の海外渡航マニュアル(保険・薬・生活の注意事項)

保険ウィズ(株式会社ウィズハート)代表取締役 木代晃輔
株式会社ウィズハート
代表 木代晃輔
保険ウィズ(株式会社ウィズハート)代表取締役 木代晃輔
株式会社ウィズハート
代表 木代晃輔

株式会社ウィズハートの木代(きしろ)です。

弊社では、持病をおもちの方の海外旅行保険についてご相談を数多くお受けしていますが、がん治療中の方やがんの既往歴がある方からもよくご相談をいただきます。

「持病をお持ちの方でも、病気を理由に海外渡航や海外チャレンジを諦めないで欲しい」という気持ちで、がんの治療中や既往歴のある方の海外渡航をサポートしてきました。

そこで今回は、がんの持病をお持ちの方について、
1.海外旅行保険加入について
2.海外渡航時・滞在時の注意点
3.薬の準備について
を、海外渡航マニュアルとして解説していきたいと思います。

※本記事は、全て2025年8月時点の情報に基づいて作成しています。
海外渡航に関わる公的制度や保険制度は頻繁に改定されますので、最新情報を確認したい方は弊社までお気軽にお問い合わせください。

1.がんの罹患歴がある方の海外旅行保険の選び方

がんは大変な病気です。

がんの治療は長期間に及ぶことが多く、心身ともに大きな負担がかかることもあります。旅行が好きな方は、治療のモチベーション維持やリフレッシュのために旅行に行きたい、と思うこともあるでしょう。

抗がん剤治療などがひと段落して自分へのご褒美に海外旅行に行きたい、がんの治療を頑張った家族を海外旅行に連れて行きたい、といった声もよくお聞きします。

しかし、
「がんの治療中の人や既往歴がある人は海外旅行保険に加入できるのか?」
「加入できたとしても、万が一現地でがんが悪化した場合の医療費用などは保険で補償されるのか?」
と不安に思われて弊社にご相談いただくケースが多くあります。

まずは、1カ月以内の短期渡航と1カ月超の長期渡航の2つのパターンに分けて、海外旅行保険への加入方法について解説します。

【31日以内の渡航の方】がんの悪化も補償される保険を選ぶ

がんの治療中や既往歴がある方の場合、加入できる海外旅行保険は限定されます。

特にインターネットで加入できる格安タイプの海外旅行保険は加入不可となっているところが多いので注意してください。

ただ、少ないながらも加入できる海外旅行保険はあり、その中には「海外渡航中にがんが悪化した場合も補償してくれる」保険もあります。

「応急治療救援費用特約」という補償が付いた海外旅行保険であれば、がんが悪化した場合でも補償対象となりますので、こういった海外旅行保険を選ぶようにしましょう。

弊社ウィズハートの海外旅行保険にもこの「応急治療救援費用特約」が付帯されており、31日以内の渡航であれば、現地で持病が悪化した場合の治療費用も補償の対象となります。

なお、持病が補償されるのはあくまで海外渡航中の悪化・再発であり、渡航前から海外病院の受診を予約していたり、定期治療を受けられた場合の費用は海外旅行保険ではカバーされません。

保険にご加入された方の事例紹介(渡航期間31日以内)

弊社でがんの治療中また既往歴のある方で海外旅行保険(渡航期間31日以内)に加入された方の一例をご紹介します。

【海外旅行保険の加入例(渡航期間31日以内)】

年代・性別 渡航先・期間 病状・既往歴
30代女性 グアムに家族旅行
(4日間)
唾液腺がん既往歴・現在は服薬なしで年1回の経過観察のみ。
60代男性 シンガポール旅行
(7日間)
1年前に悪性リンパ種で抗がん剤治療。現在は定期的な血液検査と服薬で治療中
50代女性 イギリスに家族旅行
(7日間)
乳がんステージⅢ診断、治療開始前の旅行
30代女性 ハワイ旅行
(6日間)
乳がん手術の既往歴。服薬中

お客様によってがんの治療状況は様々で、
・5年以上前にがんの手術を受けた方
・現在も服薬治療中の方
・がんと診断されたばかりで本格的な治療開前の方
などいらっしゃいます。

「告知事項に引っかかってしまうので加入できる保険がない」「現地で病状が悪化した場合でも補償できる保険に入りたい」と、弊社にご相談をいただくケースが多いです。

観光旅行から仕事の出張、家族や知人に海外で会うなど、皆さまそれぞれに色々なご事情がありますが、弊社で個別に病状や既往歴などの確認をさせていただき、「応急治療救援費用特約」が付帯された海外力保険にご加入いただいています。

【32日以上渡航の方】加入できる海外旅行保険があるか、代理店に相談する

渡航期間が1カ月超(32日以上)になると、加入できる海外旅行保険はさらに少なくなり、がんの悪化や定期治療については基本的には補償対象外となってしまいます。

渡航期間が1カ月を超える場合には、病名や病状などを申告したうえで引受できる保険会社や保険条件を個別に探す必要があります。

弊社ウィズハートでも日々ご相談に対応して保険会社への確認を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

がんの方の海外旅行保険のご相談はこちら

保険にご加入された方の事例紹介(渡航期間32日以上)

ウィズハートでは、がんの既往歴をお持ちの方や治療中の方の海外旅行保険を数多く手配してきた実績があります。
渡航期間が中長期で海外保険旅行に加入していただいたお客様の事例をご紹介します。

A様は、過去に甲状腺がんの手術を受けており、現在もホルモン剤を投与しながら3カ月に1度の診察を受けながら経過観察中の状態でした。

アメリカの大学院での留学を予定しているとのことで留学保険を探されていて、「がんの既往歴があり、現在も服薬治療中のため加入できる保険がなくどうしたらよいか?」と弊社にご相談をいただきました。

ご相談を受けてすぐに複数の保険会社に要望を伝え引受できるかを確認いたしました。
結果、ある保険会社の特別プランで加入できることが分かり、相談者さんには無事に保険期間1年の海外旅行保険にご加入いただいたうえで出発してもらうことが出来ました。

海外療養費制度の活用を検討する

持病で病院にかかった場合など、海外旅行保険で持病が補償されない時は、加入している健康保険の「海外療養費制度」の利用を検討しましょう。

海外療養費制度とは、「海外旅行中に急な病気やけがなどにより現地の医療機関で診療等を受けた場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる」制度です。

ただ海外療養費制度の申請するにあたっては、自分で作成する申請書や支払った医療費の領収証以外にも、現地の病院で具体的な診療内容に関する書類に記入してもらう必要があります。

この申請手続きが煩雑でとても大変です。

また、現地で支払った金額がそのまま認められるわけではないため、還付金が思ったより少ないこともある点にも注意が必要です。

海外療養費制度は使い勝手が良くない制度ですので、過度に頼りすぎることは禁物です

全国健康保険協会の海外療養費制度のページでも以下のように記載されています。

「日本と海外での医療体制や治療方法等が異なるため、海外で支払った総額から自己負担相当額を差し引いた額よりも、支給金額が大幅に少なくなることがあります。」
引用元:全国健康保険協会|海外療養費制度

ウィズハートでは海外療養費制度の申請サポート経験も多数ありますので、申請手続きサポートや翻訳書類作成代行(有償)も承っております。

Youtubeでも海外旅行保険の選び方を解説

海外生活や渡航のリアルを伝えるYouTubeチャンネル「週末海外ノマド ダイスケ」にゲスト出演し、『持病をお持ちの方の海外旅行保険の選び方』を解説させていただきました。

60件のコメントが寄せられるなど多くの反響をいただきました。

1時間ものあいだ海外旅行保険だけを話しているマニアックな内容ですが、海外旅行保険の選び方や木代の海外旅行保険への想いなどを載せていますので、よろしければご覧になられてください。

【動画で話している主な内容】
・ダイスケさんがバンコクで体調不良に、保険金請求の実状
・クレカ付帯保険の改悪と補償の限界
・持病をお持ちの方が海外旅行保険に入るときの注意事項
・どの保険会社を選ぶのが良いか?
・現地保険のメリットとデメリット
・日本の海外旅行保険のメリット

2.がんの治療中または既往歴のある方が海外渡航する際の注意点

がん治療中または既往歴のある方が海外渡航する場合には、特に以下のような点で対策をしっかり行いましょう。

①旅行について主治医に相談する
②旅行スケジュールに余裕をもちストレスや疲労をためない
③フライトへの対策
④感染症対策をしっかり

①旅行について主治医に相談する

がん治療中や以前がんに罹られた方が海外旅行をしたい場合、まず主治医に相談するのが第一です。

がんの治療には様々な生活上の困難や負担を伴うため、旅行などを制限してしまう方も多いでしょう。

がんの患者支援団体である全がん連が加盟団体を通じて行った調査によれば、がんを患っていることで「旅行をあきらめた」、もしくは「行き先を変えたことがある」と回答した人が、全体の過半数(52%)いることがわかっています。※

しかし、体調に問題がなく主治医が許可するのであれば、気分転換やリフレッシュに海外旅行に出かけることは可能です。

お医者様によっては、抗がん剤治療中でも薬のスケジュールなどを調整して、海外旅行を許可してくれるケースもあるようですので、まずは主治医にしっかり相談しましょう。※※

もちろん、主治医が旅行を薦めないというケースもあるでしょうが、それは治療や病状を勘案してのプロの判断ですから仕方ありません。

海外旅行に出かける際には、後から詳しく説明するように、万が一に備えて英文の診断書や薬剤説明書などの準備が必要です。

さらに、症状や体調によって、現地での食事や生活での注意点を教えてもらったり、投薬の内容やスケジュールを調整してもらったりする必要がありますから、必ず主治医に相談をするようにしてください。

※参考:プレスリリース・ニュースリリース配信サービスのPR TIME|楽天メディカル、楽天および全がん連の3者共同で、がん患者さんが安心して旅行を楽しむための支援プロジェクト「旅行から、がん克服」を開始

※※参考:ヨミドクター(読売新聞)|抗がん剤治療の予定を変えて旅行に行ってもいいですか?

②旅行スケジュールに余裕をもちストレスや疲労をためない

がんの部位や症状は人によって様々ですが、治療中の方はもちろん、治療が完了している方も、ストレスや疲労は悪化や再発の引金となるおそれがありますから注意が必要です。

せっかくの海外旅行で体調を崩したり、病状が悪化したりして嫌な思い出になってしまっては意味がありません。

旅行のスケジュールには余裕をもってストレスや疲労をためないようにしましょう。

③フライトへの対策

海外旅行で気になるのが長時間のフライトです。

特に呼吸器系のがんの方は、気圧や酸素濃度の関係で長時間のフライトに不安を感じられるかもしれません。

しかし、呼吸器系のがんの場合でも、手術が完了して普段の日常生活が問題なく送れていれば飛行機に乗っても大丈夫、と医師が判断するケースも多いようです。※

まずは主治医に話をして、長時間のフライトで不安に感じていることや対策などを相談してください。

必要に応じて、航空会社に事前に連絡をし、空港での車椅子を手配する、飛行機内ではトイレ近くの席にしてもらう、などの対応をお願いするとよいでしょう。

※参考:神奈川県立がんセンター呼吸器グループ|診断・治療のQ&A

④感染症対策

がんの化学療法をした方は、免疫力が落ちて感染症にかかりやすくなっているおそれがあります。

渡航先が日本と同じ衛生レベルであるとは限りません。また、空港や飛行機などは不特定多数の人間が出入りしたり、長時間滞在したりするため、感染症には十分注意が必要です。

こまめに手洗いする、マスクをする、消毒液やウェットティッシュを常備するなど、基本的な衛生及び感染症対策を徹底するよう心掛けてください。

また、感染症対策には、口腔内を清潔に保つことや乾燥に注意することも大切です。

うがい用のコップやマウスウォッシュ液などを持参するなどして、口腔内を清潔に保つように心がけましょう。

※参考:国立がん研究センター 東病院|日常生活での注意点

3.薬の準備について

3つめのポイントとして、「がんの治療中または既往歴のある方が海外に渡航する際の、薬の確保や準備の方法」について解説します。

海外では、どのようなトラブルがあるかわかりません。
現地や航空機のトラブルで、予定よりも長く滞在せざるをえないことも考えられます。

がんのある方が海外に渡航される場合には、薬の確保について以下のような点を必ず事前にチェックして準備しておきましょう。

①日本からの薬持参は多めに行う
②薬の説明書類や英文診断書を用意しておく
③長期滞在の方は、海外現地で薬をどうやって確保するかを調べておく

それぞれのポイントにつき詳しく解説していきます。

① 日本からの薬持参を多めに行うこと

がんなどの持病がある方は、海外渡航時に多めに薬を持っていくようにしましょう。

基本的には渡航期間に応じた必要量を確保していかれると思いますが、海外旅行では空港での荷物ロスや盗難などのリスクもあります。

渡航期間に合わせたギリギリの量ではなく、少し多めに準備をし、しかもできれば分散して持ち込むようにしてください

数か月以上の海外渡航になる方は、主治医に多めの処方が出来るかどうか早めに相談しておきましょう。

主治医の判断次第にはなりますが、健康状況によってはいつもより多めの処方をしてくれたり、オンライン診療で対応してくれたりすることもあります。

ただし、医薬品の持ち込める量は渡航先の国によって異なり、場合によっては医師の診断書や事前の許可申請が必要なこともあります。

【主要国の薬の持ち込める量一覧】

国名 持ち込み可能な医薬品分量
(一般的な処方薬や市販薬)
オーストラリア 最大3か月分
カナダ 最大90日分
イギリス 最大3か月分
アメリカ アメリカ滞在期間を勘案し、個人的使用に必要と想定される量

国によって違いはあるものの、持ち込める服用量は1か月〜3か月までが一般的です。
規定の量を超える場合には、別の方法で確保する必要があります。
(現地で薬を確保する方法については、後ほど詳しく解説します)

厚生労働省のホームページに、海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについて注意事項や各国の制度がまとめられています。
渡航先の規制がどのようになっているか、必ず事前に確認しておきましょう。

■ 厚生労働省のホームページ
海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについて

② 薬の説明書類や英文診断書を用意しておくこと

出発の前には必ず
・薬の英文説明書
・英文診断書

を準備しておきましょう。

がんの患者さんは、環境変化のストレスや疲労から様々な症状が出る可能性があり、その場合には症状を悪化させないよう無理せず病院に行くことが大切です。

現地で医療機関や薬局に行く場合には、現在の病気の症状や服薬などについて、英文の薬剤証明書や診断書の提出が必要ですから、海外渡航前に必ず準備しておきましょう。

上で説明したように、医薬品の持ち込みは各国ごとに規制が異なっており、処方薬を持参していると、入国審査でトラブルになる可能性もあります。

英文の薬剤証明書や診断書があれば、治療のための適切な薬であることが証明できるので、不要なトラブルを避けられるでしょう。

また、日本から国際郵便で薬を送る際に、薬品の名前や成分を英語で説明しなければならないことも考えられます。英文の薬剤証明書や診断書のコピーがあるのが一番ですが、手元に無くすぐに対応が難しいケースもあるかもしれません。

そのため、自分で薬や成分の英語表記を確認して控えておく、簡単な英文説明書を用意する、などの対応も有効です。

最近では、製薬会社のホームページで薬の英文説明を表示しているところもあります。

また、一般社団法人くすりの適正使用協議会が運営するサイト「くすりのしおり」では、英語表記で薬の成分や用法・容量の説明を公開していますので、必要に応じてチェックしてみてください。

■ 一般社団法人 くすりの適正使用協議会
くすりのしおり|患者向け情報

③ 長期滞在の方は、現地で薬をどうやって確保するかを調べておく

がんのある方が1カ月以上の長期で海外渡航される場合は、もしもの時のために現地で薬を確保する方法を事前に調べておきましょう。

がんが悪化したり再発のおそれがあったりする場合は一時帰国して医師の診察を受けるのが先決ですが、抗生剤など症状を抑えるための薬であれば、現地で同様の薬を確保して間に合わせるケースも想定されます。

このような薬について、たとえ日本で必要量を確保して準備していっても、荷物ロストや予定滞在期間が延長となるなどの不測の事態により、現地での薬確保が必要となるかもしれません。

海外渡航中に現地でどのように薬を確保するか、主に考えられる方法は以下です。

【海外現地で薬を確保する方法】
・日本から国際郵便で送る
・家族や友人が現地に行くときに持ち込む
・本人が一時帰国した時に薬を確保する
・海外のクリニックで診察を受けて確保する

日本から国際郵便で送る、あるいは家族や友人が現地に行くときに持ち込むことができればベストです
日頃から飲みなれている日本の薬であれば安心もできるでしょう。

観光地では日本人向けに日本語が話せるスタッフがいるクリニックもありますし、日本人医師がオンライン診療を受け付けているケースもあります。
事前によく情報を収集しておくようにしましょう。

最後に

がんの治療中または既往歴のある方が海外渡航される場合の注意点、必要な保険手配や薬の確保方法などについてご紹介しました。

保険の条件や事前の薬確保の方法などは、渡航される国や期間、薬の入手のしやすさによって異なり、「これが正解!」というものはありません。
特にがんについては部位や症状も千差万別ですから、その人の病状や治療法に合った対応や対策が求められます。

ウィズハートではがんがありながらも「海外に行きたい!チャレンジしたい!」という方たちを多くサポートさせていただいてきました
お客様に寄り添いサポートするなかで得た経験・知識を、また新しい別のお客様に提供し続けています。

もしあなたが「これから海外渡航したい」と考えているのなら、保険のことをはじめ、様々な面でお役に立てると思います。
まずはお気軽にご相談・お問い合わせください。

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木代 晃輔

この記事の執筆者:木代 晃輔

株式会社ウィズハート 代表取締役
神奈川県出身。大学卒業後に損害保険会社で勤務。
株式会社ウィズハートを創業し、保険相談サイト「保険ウィズ」やFP相談サイトを開設。

損保勤務時は損害保険の開発業務に携わり、現在は海外旅行保険や個人賠償責任保険のプロとしても活動中。