現役看護師から妊婦さんへのメッセージコラムNurse Column

妊娠糖尿病は妊婦さんのせいじゃない。よくある誤解と治療のポイントを現役看護師が解説。

公開日:2021/05/30

妊娠中にかかる病気(妊娠合併症)の1つに、妊娠糖尿病があります。

妊娠合併症には切迫早産、つわりなどたくさんありますが、妊娠糖尿病の頻度は全妊娠の12%と多く、決して珍しい合併症ではありません。

けれども「糖尿病」がもつ言葉のマイナスイメージから、ママたちが不要な心配や悩み、苦労をされるケースが後を絶ちません。

今回は、妊娠による体の変化からどうしても発症しやすい合併症「妊娠糖尿病」について、糖尿病療養指導士で看護師のAkariが分かりやすく解説していきます。”


妊娠糖尿病はどのような病気か

妊娠中の糖尿病には、
・妊娠前から糖尿病がある方の糖尿病合併妊娠
・妊娠中に初めて発見される糖代謝異常
の2種類があります。

さらに後者の妊娠中に初めて発見されるものには、血糖値が高めだけれど糖尿病と診断するほどではない場合(妊娠糖尿病)と、糖尿病の診断基準を満たすことが妊娠中に判明した場合(妊娠中の明らかな糖尿病)にわけられます。

妊娠糖尿病の原因

妊娠中は胎盤からたくさんのホルモンが分泌されています。
そのホルモンはインスリンの働きを抑える働きをもっていて、さらに、胎盤ではインスリンが分解されています。 

その結果、相対的にインスリンの必要量が増え血糖値が高くなることで妊娠糖尿病を発症してしまうのです。

妊娠糖尿病の場合は出産後しばらくして胎盤からの影響が落ち着くと、インスリンが普通に働くようになるため、自然と血糖値が安定してきます。

個人差はありますが、注射が不要となることがほとんどです。
もし出産後もインスリン注射が必要な場合には、糖尿病治療を継続します。

妊娠糖尿病になりやすい妊婦さんの特徴

・肥満
・家族に糖尿病の人がいる
・高年妊娠(35歳以上)
・尿糖の陽性が続く場合
・以前に大きな赤ちゃんを産んだことがある人
・原因不明の流産・早産・死産の経験がある人
・羊水過多(ようすいかた:羊水が多い)
・妊娠高血圧症候群の人、もしくは過去に既往がある人
などがあり、理由は決して一つではありません。

さらに反復率は36~70%程度と報告されていて、1人目の妊娠では妊娠糖尿病だったからといって、2人目の時も同じようになるとは限らないのも妊娠糖尿病の特徴なのです。

どんな検査を行いますか?

妊娠初期には採血の際に随時血糖法で血糖値を測定します。
妊娠中期には随時血糖法か50gぶどう糖負荷試験を行い、妊娠糖尿病を診断します。

なぜ妊娠糖尿病に治療が必要なの?

長年の研究により、妊娠糖尿病はママにも赤ちゃんにも影響があることがわかってきました。

妊娠糖尿病のママへの負担や影響

正常妊娠のときに比べて、高血圧や流産・早産・羊水過多などの産科的合併症や糖尿病による合併症を起こす可能性が高くなります。

赤ちゃんが平均体重よりも大きくなることで難産になりやすい特徴があります。

妊娠糖尿病のママから生まれる赤ちゃんへの影響

妊娠のごく初期には先天異常や奇形、流産を発症する可能性が高くなるといわれています。
妊娠後期には巨大児や新生児低血糖、新生児黄疸、多血症などの多くの合併症のリスクが高くなります。

厳格な血糖コントロールが血糖値異常の影響を最小限にする

合併症を起こさない、リスクを減らすために重要なことは「厳格な血糖コントロール」です。
血糖値が高いと気づいた段階から、血糖コントロールをすることでママと赤ちゃんへの影響は減らせるのです。
 
その基準値は、
「低血糖を回避しつつ、早朝空腹時血糖値95mg/dl未満かつ、食後血糖値に関しては食後1時間血糖値140mg/dl未満、もしくは食後2時間血糖値120mg/dl未満のコントロールを維持することが理想的」
とされています。

妊娠糖尿病の治療のポイント

食事を正しくとることで血糖を安定させ、赤ちゃんに必要な栄養をとり、ママの健康も維持していきます。
主治医の許可があれば運動療法も併用します。

食事療法のみでは血糖値が目標に達しないときには、注射などによるインスリン療法を行います。

2型糖尿病のような内服薬の治療は安全性と胎児への影響が明らかになっていないため推奨されていません。
そのため、妊娠糖尿病の管理には「インスリン療法」が主体です。

また出産後は胎盤の影響をうけなくなるため、妊娠中よりもインスリン量を減らして投与します。
産後にインスリン治療が不要になった方でも、3~6か月は継続的に検査をして血糖値に異常がないか経過をみていくことになります。

妊娠糖尿病はママのせい?あるママとご家族の戦い

「糖尿病」と聞くと生活習慣や管理が不十分で罹病するというイメージを持たれている人も多いでしょう。

1型糖尿病や妊娠糖尿病、膵臓の病気など、生活習慣ではどうしようもない病気で糖尿病になってしまう患者さんも少なくありません。 

妊娠糖尿病に罹患した妊婦さんに対する誤解と偏見が、あわや離婚の危機に発展しかけたエピソードを今回はご紹介させていただきます。

25歳で糖尿病!?妊娠糖尿病があわや離婚の危機に

Cさんは25歳の物静かな妊婦さんで、職場で出会ったご主人と結婚。 
診察はご主人と一緒で、とても楽しそうに受診されていたのが印象的でした。

3か月検診で妊娠糖尿病を指摘され、糖尿病療養指導士から、食事療法と血糖測定の指導を行い、2週間後に検診に来ていただくようにしました。

2週間後様子が一変

Cさんはとても疲れた様子で一人で来院されました。
お話を聞いていくとご主人から
「糖尿病ってなんでなったの?」
「変なものを食べたり、今までも体に良くない事してたんでしょ」
「赤ちゃんになにかあったらどうするの」
と言われてしまったのです。 

さらに、食事療法や血糖測定を頑張っていても「自分のせいだから何とかしなよ」と協力してもらえなかったようです。

「妊娠糖尿病になって、夫婦関係も悪くなった。妊娠も出産も嫌になってしまった」
お友達にも家族にも話せなかった思いを、Cさんは面談で涙を流しながら話してくださいました。

この時、一つ思い当たることがありました。
「妊娠糖尿病はママのせいでなる病気ではない」という大事なことを、ママにもパパにも説明していなかったのではないだろうか…と。

医師や助産師に確認すると、一番大切な「ママのせいではない」という事をきちんと説明していなかったようなのです。
かくいう私も食事療法と血糖測定の指導しかしておらず、至らなさに心が痛みました。

妊娠をきっかけに糖尿病になることは一般的にはあまり知られていません。
一般的な糖尿病のイメージがCさん夫婦を追い詰め、つらい思いをさせてしまったのです。

医師からは「妊娠糖尿病はCさんのせいで発症したわけではない」ことを説明しました。
さらに妊娠糖尿病について説明した資料をパパに渡していただき、1週間後にご夫婦でお会いする事となりました。

1週間後の外来で…

Cさんはご主人と一緒に来院されました。
表情は心なしか落ち着いています。

お話を伺うと、ご主人も前回お渡しした妊娠糖尿病の資料を読んで少し理解してくれたようです。

診察の際に医師からもう一度妊娠糖尿病についてお話し、私からも夫婦で食事療法と血糖管理をしてほしいこと、
ストレスが血糖コントロールや胎教に影響を与えることもお話しました。

2か月後にお会いしたお二人は…

今日も二人そろって、とても嬉しそうにエコー写真を見つめていらっしゃいました。

いまは1日6回の分食で血糖値が上がりすぎないように調整し、インスリン注射を併用し適正範囲内に血糖を調整しています。

Cさんは「いまは主人がささえてくれて、血糖値の上り下がりも二人で予測しながら、食事も運動もできています」
「あの時は病気のせいで離婚しようかと思いました、看護師さんと先生に話をしてもらえてよかったです」
と、二人で話されたことがとても印象的でした。
その後もお二人で妊娠糖尿病の治療を頑張っていると、他のスタッフから聞き心の底から安堵しています。

医師・看護師・助産師は病期と向き合うサポーター

この一件から
「妊娠糖尿病はママのせいでなる病気ではない」
「家族みんなで治療に向き合う」
ことを、患者さんとご家族に意識的にお話しするようにしました。
そうするとどの患者さんも一様にホッとした表情をされるのが印象的でした。

医療従事者は、患者さんが病気と向き合うため、病気と一緒に暮らしていくためのサポーター役です。
どのようなサポートが必要なのかは、患者さんそれぞれに異なります。

妊娠糖尿病と診断され不安になられた方は、心配なことをぜひ医師や看護師・助産師に相談してみてください。
きっとあなたの心強いサポーターになってくれると思います。