つわりで苦しむ妊婦さんに看護師から。つわりは周囲の理解とサポートで乗り越えるもの。
ドラマなどで妊娠すると、気持ち悪くなったり・食べ物の好き嫌いが変わったりするという話を、見たことがありませんか?
プレママの方も、「気持ち悪い…」と思ったときに『つわり』について色々調べる方が多いと思います。
ここでは現役看護師であるAkariが、『つわり』について大切なコトをお伝えしていきます。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
2003年から看護師として勤務。小児科・NICU・産科を経験し、現在は都内病院で勤務しています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
赤ちゃんと共に日々頑張っている妊婦さんに向けて、役立つ記事を書いていきます。
つわりで特に怖いのは、妊娠悪阻(にんしんおそ)
「つわり」は妊娠している人の80%に症状が現れるもので、妊娠初期から中期にかけて症状が落ち着く場合もありますが、出産した数日後まで症状が続く人もいます。
若い人、有色人種、初めて妊娠した人に症状が強く出やすいと言われていますが、原因はホルモンバランスの影響という以外には良くわかっていません。
特定の食べ物しか食べられず空腹感がすると気持ち悪くなるタイプの人と、ずーっと吐き気がする・吐いてしまい食事がとれないタイプの人がいます。
後者の方は、水でさえも吐き気が出てしまう人もいて、十分な水分や栄養が取れなくなると【妊娠悪阻(にんしんおそ)】と言われる状態となり、入院しての治療が必要になります。
最悪の場合には、妊娠の継続が困難になったり、ママ自身が亡くなってしまう場合もあるのです。
つわり・妊娠悪阻は、なぜ入院治療が必要か?
「妊娠中は赤ちゃんの分まで栄養をとりましょう」と言われたことはありませんか?
赤ちゃんはへその緒を通して、ママの血液から水分・栄養をもらって成長していきます。
そのため、ママが水分や栄養が十分とれていない場合は、赤ちゃんに十分な栄養をとどけられず、赤ちゃんの成長発達に大きな影響を与えるリスクが高まります。
もしママが水分や栄養が取れていないと、赤ちゃんのために自分の体を削って赤ちゃんの命を守ろうとし、ママの体重がどんどん減っていきます。
そして水分や栄養をとれない状態が続いてしまうと、ママの命も赤ちゃんの命も守ることができない危険が出てきてしまうのです。
つわりは妊娠中いつ終わるかが分からない。
いつかは良くなるから様子をみようと思っているプレママさんもいませんか?
もちろんそれで収まる可能性はありますが、赤ちゃんの脳や神経・体は成長する時期が妊娠の週数ごとに違っていて、その時期に十分な栄養を届けられないと、赤ちゃんの成長発達に影響をあたえたり障害を生むリスクも高くなるのです。
ママと赤ちゃんのそれぞれに、必要な水分・栄養を点滴して補うことで、ママの命も赤ちゃんの命と将来をも守ることにつながりますので、お医者さんにすすめられたら無理せず治療をすることをお勧めします。
つわりが酷いときはどんな治療をするの?
つわりが中等から重症の場合は、まずは通院で点滴をして、直接血管内に水分と糖分・栄養をママと赤ちゃんに届けていきます。
体が水分と栄養で満たされ、週数がたってくるとすこしずつ食事できるようになり、つわりの症状がなくなる方もいらっしゃいます。
それでもつわりの症状が良くならない時は、【妊娠悪阻(にんしんおそ)】と言われ、入院して持続的に点滴をして胃や腸を休め、吐き気止めの点滴なども併用します。
つわりが軽くなったらすこしずつ食事を取り、体を整えていく治療をしていきます。
ママと赤ちゃん2人の命を守るためにも、重症なつわりの場合は入院して、点滴で水分・栄養を補給してあげることが大切なのです。
また、身体的な面だけではなく、安定していないプレママ生活はココロにも大きな負担となります。
ママたちの頑張りをねぎらい、頑張りすぎないようにゆっくり休むことも、元気に赤ちゃんを産むためには必要ですので、水分・栄養・安静を原則として、症状が良くなるのを気長に待っていきます。
忘れられない妊婦のMさん(25歳)のこと
産科で働いていたころ、妊娠3か月でつわりがひどくなり入院してきたMさんがいました。
妊娠が分かってからずっと食事も水分も満足に取れず、2か月で5Kg以上体重が減ってしまって、歩くのもやっとの状態でした。
Mさんとは偶然同じ歳でしたので、話も良く弾み、明るいプレママさんだと思っていました。
ある夜のこと、Mさんは…
『友達や知り合いの人でも、誰もつわりで入院したことはないの』
『旦那や友達に「つわりで大げさ」「気合が足りない」と言われてしまって…』
『ママになる資格がない、赤ちゃんのために頑張れていない』
と話されました。
私は産科勤務をとおして、つわりで入院するママさんたちを何人もみてきていたので、
・症状には個人差があって入院する人もたくさんいること
・いままで赤ちゃんを守るために自分の体を削って赤ちゃんに栄養をあげてきたこと
・数週間ゆっくりして体もココロも休めてあげることで症状が軽くなる場合が多いこと
など、まずは赤ちゃんのためにもMさん自身のためにも、ゆっくり休みましょうとお話ししました。
一般論しか話すことはできませんでしたが、入院した時点でもおなかの赤ちゃんはしっかりと成長していました。
Mさんががんばりすぎるくらい頑張っていることは、医療者はみんな分かっているのです。
Mさんの治療は最初の2週間は栄養と水分の点滴を続け、その後すこしずつ食事を開始して、約2か月程度入院しました。
退院後も出産までは軽いつわりはありましたが、ご主人がそばにいてサポートしてくれるようになったことが、Mさんには本当に心強かったようです。
その後は順調にママも赤ちゃんも体重が増え、予定日をすぎて元気な赤ちゃんを出産されました。
今年もMさんから年賀状をいただきましたが、その時の赤ちゃんは春には中学生に!
大病もせず、ご家族で元気に暮らせていることが本当にうれしかったです。
【つわり】は周囲の理解とサポートが必要です
つわりは妊娠によってホルモンバランスが変わったことが原因ですので、気力や気合でなんとかしようと思っても、何ともならないのです。
「知っている人は大丈夫だった」「つわりは病気じゃない」という言葉は、自分の身を削って赤ちゃんを守っているプレママたちを傷つけてしまいます。
誰もつわりになりたくてなっているわけではありませんし、その言葉でつわりは良くなりません。
つわりでつらいときには、周囲の理解とサポートが一番重要です。
安心して休める環境づくりや声かけで、プレママたちは無理をせず、赤ちゃんと自分自身を守ることができ、元気な赤ちゃんを産むことができるのですから…。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
2003年から看護師として勤務。小児科・NICU・産科を経験し、現在は都内病院で勤務しています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
赤ちゃんと共に日々頑張っている妊婦さんに向けて、役立つ記事を書いていきます。