現役の糖尿病療養指導士が書く糖尿病コラムdiabetes-column

糖尿病患者さんの指導事例「視力低下で判明した重症糖尿病」

公開日:2021/02/20
最終更新日:2021/08/01

「糖尿病は健康診断などで、血糖値が高いことをきっかけに発見されることが多い」と皆さんは思われていませんか?

少し前の話ですが、思わぬことがきっかけで糖尿病が判明された患者さんがいらっしゃいましたのでご紹介します。

40代の男性のSさんは、数年前に受けた会社の健康診断で血糖値が高いとは言われたことがありました。
「自分は若いし、糖尿病にはならない」と思っていましたし、特に症状もなく、元気に毎日働き、病気とは無縁の生活でした。

ある朝、スマホの画面がぼやけてほとんど見えなくなってしまったSさん。
心配になり近所の眼科を受診され、診察の結果「重度の糖尿病性網膜症」で眼の中で出血しているということがわかりました。

「死んでしまいたい…」患者さんの切ない本音

さらに町の眼科では対応ができないくらいの重症ということがわかり、当院に紹介されました。
すぐに手術が必要な状態でしたので、Sさんは翌日には入院・手術となりました。

病室でお会いするSさんは、急な入院・手術に大変ショックを受け、失明するかもしれないという恐怖をぽつり、ぽつりと話しはじめました。

そして、
・今まで血糖値が高いと言われただけで糖尿病とは言われていなかったこと
・学生のころからスポーツもしていて太ってもいないこと
・食事にも気を付けていて糖尿病になんて絶対にならないと思っていたこと
を話してくれました。

「なぜ糖尿病で目が見えなくなるんだ・・」
「このまま何も見えなくなってしまうんじゃないか。自分は生きていく価値はもうない」
「人生で楽しい事なんてもうない、死んでしまいたい」
とも仰っていました。

糖尿病と『目』の病気には大きな関連があります

糖尿病に携わる医療従事者以外はあまり知らないかもしれませんが、実は、糖尿病と診断される患者さんのうち16.9%が糖尿病網膜症で、特に「HbA1c8%以上」で「糖尿病罹病期間が10年以上の5割以上が糖尿病網膜症と診断される」と言われています。

そのうち年間3000人が失明していて、人生の途中で失明する原因の第2位が糖尿病となっています。

長く糖尿病を患っていて、血糖値の値が高いとなりやすい糖尿病網膜症ですが、Sさんの場合は未治療の期間が長かったため、その期間に気づかないうちに糖尿病が悪化していたことが考えられました。
糖尿病網膜症が発症してしまうその理由は、血糖が高い状態が続くと全身の細かい血管が徐々にダメージをうけ、細かい血管が無数に集まる【眼】の血管が徐々に壊れてしまうからです。

血糖値の管理が良い人でも、長い期間糖尿病で血糖値が上がったり下がったりしていると、血管は時間をかけて壊れてしまいますので、忘れたころに症状が出てくるのです。

Sさんは、いったんは眼が見えにくくなりましたが、早く受診し手術を受けたことが功を奏し、2か月後には出血しなかった片側の眼と同じくらいに、視力は回復していきました。

あれから7年。SさんのHbA1cは8.4→5.8に低下し、網膜症は進行することなく他の合併症もなく過ごされていて、眼科も糖尿病内科の受診をサボることはありません。

糖尿病の経験を活かして生きていくSさん

その後、自分の会社を立ち上げたSさんは、社員には毎年健康診断を受けさせて、結果が少しでも悪ければ仕事を休ませて病院に行くようにさせています。
経過観察の受診も、仕事をするのに必要な時間と考えて、勤務時間のなかで受診をするように指導し、社員の健康管理を徹底していらっしゃいます。

それは、自分が初めて入院したときに、会社や同僚に迷惑をかけた申し訳ない気持ちが今でも残っていること。
退院したあとも定期的に受診する時間の調整に苦労して足が遠のきそうになっていたこと。
自分の大切な従業員には自分のような思いや・経験をしてほしくないから、自分が社長になったら社員の健康管理に力を入れたかったのだと、Sさんは話されていました。

働き盛りの世代の方は健康診断で異常を指摘されても、自覚症状がないので、受診のきっかけになることはあまりありません。
病気になっても、平日の日中に2~3か月に一度定期的に受診を続けることが難しいのが実情です。
結果、足が遠退いてしまい、何年も未治療となり結果として取り返しのつかない状態になっている患者さんを何人も見てきました。

Sさんはご自身の経験を生かし、他の人の人生を守るため・同じような経験をさせないために、患者側の気持ちにたって行動していらっしゃいます。
そういった考えの患者さんとお逢いすることはなかなか叶わないのですが、病気は誰もがなる可能性がありますし、いつなるかわかりません。

Sさんのような方が増えていけば、慢性疾患を持ちながら社会で活躍できる場が増えていき、誰にとっても働きやすい社会となってくるなぁ…と思っています。

現役看護師 小田あかり

この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり

看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など

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