FP・識者の保険コラムExpart Column

ウーバーイーツ配達員向けの補償制度、足りない補償が社会問題に。

ウーバーイーツ配達員による事故が多発

デリバリー需要が高まり、注目を集めているウーバーイーツ。
ウーバーイーツ配達員は配達用のバッグと自転車があれば始められるので、副業としても人気です。

一方で、最近はウーバーイーツ配達員による交通事故のニュースをよく見かけるようになりました。
「早くお客様のもとに届けなければ」「効率よく稼がなければ」という気持ちが、スピードの出し過ぎに繋がり、事故を引き起こすきっかけになっているのでしょう。

ウーバーイーツの配達員が事故を起こしてしまった場合に備えて、ウーバーイーツ側も補償制度を用意していますが、この補償制度には大きな問題があることが分かってきました。

ウーバーイーツ配達員の補償制度と問題点

ウーバーイーツが提供する補償制度には、第3者への対人・対物賠償補償に加えて、配達中にケガをした際の入院費等に備える傷害補償があります。
賠償責任と配達員自身のケガの補償があれば十分のように思えますが、この補償にはいくつか問題点があります。

問題点1 対人・対物賠償補償に示談交渉サービスがない

まず大きな問題点の1つは、対人・対物賠償補償に示談交渉サービスがついていないことです。
示談交渉サービスがついていないと、示談交渉で保険会社が間に入ってくれることはありません。

配達員自身で被害者・加害者と示談交渉を進めなくてはならず、必要に応じて自身で弁護士を雇うことになります。
それにかかる費用や時間はとても大きなもので、副業をしながら行うのはかなり大変です。

示談交渉サービスは保険業界ではとても重要なものと広く認識されているのですが、これを省いてしまってるウーバーイーツの補償制度はかなり不親切と言えるでしょう。

実際にも、ウーバー配達員との衝突事故でケガをした被害者の方が示談交渉が進まずに困っており、裁判を予定しているケースも出てきています。

女性は6月4日昼、東京都品川区の歩道で、自転車に乗っていた配達員と接触。救急車で病院に搬送され、目に傷を負ったほか、むち打ち症と診断された。

ウーバーイーツの事故担当者からは「保険会社から連絡する」と言われたが、保険会社からは「示談交渉特約がないため、示談交渉ができない」と言われた。
女性は7月14日、過失傷害の疑いで刑事告訴。警察による配達員への事情聴取も今後予定されているという。

問題点2 待機中の事故は補償対象外

2つ目の問題点は、「配達リクエストが入ってから、配達完了(またはキャンセル)までの事故」しか補償されない点です。

多くの配達員の方は、配達リクエストが入りやすい場所で待機し、配達完了すると待機場所まで戻ります。
自宅から待機場所、配達先から待機場所までに起きた事故は「配達時間外」として補償対象外とされてします。

ウーバーイーツの配達員から構成される「ウーバーイーツユニオン」の調査によりますと、配達員の事故のうち16%が配達時間外に起きているとのことです。
この16%は保険の世界で言えばかなり大きな数値であり、補償されない事故が多く発生していることが伺えます。
【ウーバーイーツユニオン 記者会見】事故調査プロジェクト報告&被害者の方の声

本来はウーバーイーツ側に配達時間外も補償して欲しいといころですが、コストを抑えるためか、補償の穴となっている状態が長く続いています。
配達時間外の事故に備えるには自転車保険などの賠償責任保険に別途加入する必要が出てきます。
ウーバーイーツ配達員が入っておくべき自転車保険。ウーバーイーツ提供の保険制度との違いは?

問題点3 ウーバーイーツの保険の賠償責任補償の詳細が明かされていない

先ほどからも書いたウーバーイーツ提供の保険ですが、実は賠償責任補償については詳しいことがオープンにされていません。
というより、ほぼ明かされていません。

どういうことかというと、一般的に保険には様々な条件があるはずです。
「こういう事故のときは補償されない」とか「配達員に大きな過失がある場合は補償されない」などが詳しく記載された約款というのがあるはずなのですが、知人のウーバーイーツ配達員に聞いたところ保険の詳細・約款のようなものは配達員は一切見れることがありませんし、本部に問合せしても教えてもらえなかったとのことでした。

配達員が自分自身にどんな保険がかかっているかが分からなければ、安心して配達業務が出来ないのではないでしょうか。
高額な賠償事故が起こしてしまったときに保険が使えると思ったら、ウーバーイーツ本部から「いや、今回の事故では保険適用外です。約款に書いてあるよ」と手のひらを返されてしまう恐れも大いにあるわけですね。
そしてその事故による一番の被害者は、本来賠償を受けられるはずだった事故被害者となります。

これについても本来はしっかりオープンにされるべきだと思います。

後日談ですが、この件について金融庁にも電話で聞いてみたのです。
「配達員にかけられている賠償責任補償についての詳細を配達員自身が知ることが出来ないのは、万が一に一般人を巻き込んだ交通事故を起こしてしまった際に賠償支払いがされない恐れがあり、一般人が泣き寝入りすることになってしまうのではないか?」と。

金融庁の電話担当者から「ウーバーイーツと配達員との業務契約に関することなので関与できない(関与しない)。実際にそのような事例が起きれば検討する」(概略)とのことでした。
ずいぶんと緩い対応だなと思ってしまいましたが、いつかそういう事故が起きてしまうのではないかと危惧します。

個人事業主だから自己責任なのか?

このようにウーバーイーツの補償制度は、配達員のことを第一に考えた制度とは言い難いです。

充実していない補償制度は、ウーバーイーツの配達員が「個人事業主」扱いされていることも背景にあります。
自身の裁量で仕事ができて自由に働けるメリットもありますが、「何かあっても全て自己責任で」という考えなのでしょう。

しかし、ウーバーイーツの業務を行っている以上、ウーバーイーツ側は配達員の安全を考え、万が一の補償を充実させるべきです。
それが被害者の救済にもつながります。

配達員自身で保険を手配しよう

現状は配達員の方自身が自分を守るための自転車保険や個人賠償責任保険に加入するしかありません。

配達時間外の自転車事故による高額賠償に備えて、自転車保険に加入しておきましょう
もちろん、示談交渉サービスは必須です。
賠償責任部分のみであれば、自動車保険や火災保険の特約で加入もできます。

ウーバーイーツ配達員のような個人事業主やフリーランスの方向けの保険に入るのもおすすめです。
損保ジャパンでは、個人事業主やフリーランスの方が加入する一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会と協力し、個人事業主等向けの保険を提供しています。
同協会の有料会員になると、入通院の補償や所得の補償に関する保険に加入できます。

これから配達員として働く方も、既に働いている方も、ウーバーイーツの補償制度を十分に理解し、足りない分は自身で準備することを強くおすすめします。