1型糖尿病の障害年金打ち切り問題、糖尿病療養指導士が感じたこと
最終更新日:2021/05/25
こんにちは、糖尿病療養指導士の看護師Akariです。
去る2021年5月17日、1型糖尿病患者に関する裁判が大阪地裁で行われました。
障害認定2級の9名が、2018年に詳細な理由が提示されないまま障害年金を支給停止となった事に対して裁判を起こしたのです。
2019年の大阪地裁の判決では「国の一方的な支給停止は違法」と判断されて支給停止処分を取り消しましたが、国は再認定で3級が妥当と判断し、結局支給は再開されませんでした。
再開が認められなかった原告は再度裁判を起こし、今回の判決で大阪地裁は、患者1人に対してだけ支給停止処分を取り消し、他の8人の訴えは棄却しました。
そもそも1型糖尿病とはどのような病気なのか
1型糖尿病は、膵臓のインスリンを出す細胞が壊されてしまう病気です。
インスリンが有効に出なくなるので生涯インスリン補充が必要になります。
日本ではこの1型糖尿病の治療費について、20歳までの全ての患者に医療費補助があるので自己負担を抑える事ができますが、20歳を超えると適応する制度はほぼありません。
1型糖尿病と障害年金の実際
現在、1型糖尿病のみで障害年金2級を新規で受給できる可能性はほとんどありません。
それは2016年に行われた障害認定基準改正が関係しています。
以前は障害年金2級まで受給可能でしたが、改正後は障害年金3級が上限になりました。
障害厚生年金の受給資格がある方のみ3級の支給を受ける事ができますが、障害基礎年金のみであれば全く支給は受けられません。
認定基準には日々の状態も受給資格に加味されます。
その基準は、「軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など」と定義されています。
今回の裁判で勝訴した一人はほぼ寝たきりで就労が難しいため、再支給対象と判断されました。
障害認定基準にあるように、1型糖尿病のみで障害年金を受給している患者さんの多くは、就労や日常生活を一人で送れない方たちなのです。
ご自身で生活できる方の場合、厚生年金の受給資格がなければ、今回の判例のように支給対象外となることが多くなるようです。
(ご自身の病状で障害年金の受給資格があるかは、担当医や社労士に確認していただくことをおすすめします。)
誰もが公平に享受できる制度が必要
体の状態は変わらないのに、法改正によって支給停止となった方は、納得のできない事も多いでしょう。
改正前の障害認定基準は都道府県によってばらつきがあったので、これまで緩かった受給者には「厳しくなった、制限された」と感じる事もあると思います。
今回の判例のように、2級非該当の判定の結果、障害厚生年金は3級になり、障害基礎年金は不支給となることは十分ありえます。
薬や治療方法の進歩で、簡易に血糖モニタリングが可能になり、低血糖を起こさなくなり状態が安定した判断され等級が下がる事もあり得ます。
日々糖尿病療養指導士として仕事をしている私個人としては、本来では小児のように公費負担を全ての患者が受けられる制度が必要ですし、障害年金の受給資格や制度自体がもっとわかりやすく患者に寄り添った制度になって欲しいと思います。
1型糖尿病患者会や学会を中心に、国への働きかけは続いています。近い将来に1型糖尿病患者さんが医療費を心配せずに治療を受けられる日が来ることを願ってやみません。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など
1型糖尿病に関する参考記事
・1型糖尿病の生涯医療費負担は1000万円以上。利用できる公的支援とは。
・【漫画】糖尿病患者さんの指導事例「1型糖尿病のRちゃん」
・糖尿病の方が加入できる医療保険・生命保険の比較