1型糖尿病の生涯医療費負担は1000万円以上。利用できる公的支援とは。
最終更新日:2021/05/24
1型糖尿病の患者さんは、膵臓からインスリンを分泌する働きが十分ではなく、インスリンを補充し続けることが必要な難病です。
2型糖尿病のように食事や運動などの生活習慣の改善だけで血糖値をコントロールすることは困難で、完治には「膵臓移植」しか治療方法がありません。
生涯にわたってインスリンを補充しなければならないので、生きていく限りは医療費負担が常にかかり、約60年で支払う医療費は1000万円以上と言われています(日本IDDMネットワークの試算)。
1型糖尿病にかかる医療費のこと、治療費への公的支援のことなど、糖尿病療養指導士(CDEJ)の看護師として解説していきます。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など
この記事の目次
1型糖尿病の医療費 毎月いくらかかるの?
日本IDDMネットワークの調査によると、標準的な1型糖尿病のインスリン補充療法をした場合の1カ月の医療費(自己負担額)は、
ペン型注射器などの注入器を用いた場合
15,000~20,000円
インスリンポンプなどの医療機器を用いた場合
20,000円~35,000円
と報告されています。
これはインスリン補充療法のみの医療費ですので、他にも血糖測定器や採血検査など費用が上乗せされます。
2013年に行われた医療調査によると、糖尿病治療にかかる医療費の月平均は、
5,000円~15,000円未満は61%
15,000-20,000円は19%
20,000円以上は9%
いることがわかりました。
また、「糖尿病治療にかかる医療額が負担である」と感じている患者は全体の86%で、多くの糖尿病患者さんが医療費負担に苦しんでいる実態も浮かびました。
新生銀行が毎年実施している「サラリーマンのお小遣い調査」2020年版によると、男性会社員の毎月のお小遣い額は 39,419 円となっています。
1型糖尿病の医療費がいかに高額で負担が多いのかおわかりいただけると思います。
小児が受けられる公的助成
1型糖尿病の18歳未満の児童(引き続き治療が必要であると認められる場合は、20歳未満)が対象となる公的助成があるのはご存知でしょうか?
この制度は2022年に法律が改正され、成年年齢が引き下げられても、20歳未満であれば受給が可能です。
1型糖尿病と診断されると、医師や看護師・メディカルソーシャルワーカー(MSW)から制度を紹介される方がほとんどだと思います。
もし、1型糖尿病と診断されているのに以下の制度を利用されていないのであれば、地域の保健所などに申請方法や制度の詳細について確認してくださいね。
現在20歳未満の1型糖尿病患者が利用できる制度は以下の2つになります。
小児慢性特定疾患医療費助成制度(糖尿病の診断を受けている児童)
この制度は、児童福祉法をもとに行われる助成制度で、以下の児童等が対象になっています。
1.慢性に経過する疾病であること
2.生命を長期に脅かす疾病であること
3.症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること
4.長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること
が条件です。
1型糖尿病にかかっている児童等についても、健全育成の観点から、患児家庭の医療費の負担軽減を図るため、医療費の自己負担分の一部が助成される制度です。
役所では “小慢(しょうまん)”と呼ばれていることが多いようです。
年収により医療費助成を受けられる金額が変わり、原則としては0円になりますが、最高でも10,000円程度にまで自己負担金額を減額することができます。
詳細は都道府県や市の「小児慢性特定疾病担当課」へ確認をしましょう。
特別児童扶養手当(糖尿病の児童をもつ保護者)
20歳未満で精神又は身体に障害を有する児童を、家庭で監護・養育している父母等に支給される制度です。
1型糖尿病の場合は子どもがインスリン注射などを自分では行えず、介助が必要な場合に2級に該当する助成を受けることができます。
手続きは、住んでいる市町村の「特別児童福祉手当担当課」が受付窓口になっています。
支給月額は、34,970円が支給されます。
この制度には所得制限がありますので、役所で支給対象になるか確認してくださいね。
■参考(厚生労働省HPより)
特別児童扶養手当について
20歳を過ぎたらどうなる。大人が受けられる公的助成はある?
20歳を過ぎたからと言って、インスリンの補充がいらなくなるわけでも、量が減るわけでもありません。この先もずっと必要です。
けれども、20歳をすぎたら、今までのように受けられる公的助成はありません。
グルコースモニタリング(SMBG、CGM/FGM)、インスリンポンプ(CSII/SAP)など利便性が高く、予後がすぐれている治療を子どもの間は選択しやすかったのですが、20歳を超えると利便性と自己負担の重さの間で患者が揺れ動くようになります。
ある研究では、「成人の患者の28%が医療費節約のために治療が不十分になっている」と回答しているのです。
一般的な公的助成としては
『障害者手帳』
『障害年金』
がありますが、発症した年齢が20歳未満であることや合併症の状態、就業状況で受給できる金額が変わるため、決して公平な制度ではありません。
日本IDDMネットワークでもこの問題に対して、小児慢性特定疾病への医療費助成の対象年齢(20 歳未満)を引き上げなどを国に訴えておりますが、改革の壁は大変高くなっており、まだ実現には至っておりません。
【2021/5/23 追記】
1型糖尿病患者の障害年金2級認定について、厳しい打ち切りの判決が出されました。
そのことについて別記事で書かせていただきました。
1型糖尿病の障害年金打ち切り問題、糖尿病療養指導士が感じたこと
まとめ
生涯にわたってインスリン補充が必要になる1型糖尿病。簡便に血糖値を測定できる機械や新しい薬も発売されています。
しかし一般的に、「新しいもの」は高価で自己負担も多くなります。
けれども、血糖コントロールが悪く合併症を発症すると、必要な医療費は何倍・何十倍となり最悪働く事も困難になってしまうのです。
いまの支払いと長期予後…どうしても目先の支出に目が行きがちですが、糖尿病療養指導士としては患者さんの人生を考えてアドバイスをし、一緒に考えていきたいと思っています。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など