FP・識者の保険コラムExpart Column

増加する訪日外国人の医療費未払いが問題に。政府も訪日旅行保険への加入を推進。

訪日外国人旅行者がコロナ禍前の水準まで回復してきています。
そんな中、訪日外国人旅行客による医療費の未払いが問題となっています。

外国人患者による医療費未払いの実態

厚生労働省が実施した医療機関の外国人患者の受け入れに関する調査では、2023年9月の1か月間で外国人患者を受け入れた医療機関のうち、18.3%の医療機関で医療費の未払いがあったことが分かりました
1施設あたりの未払い発生件数は月平均3.9件で、もっとも多い施設における発生件数は40件でした。

また、1件あたりの未払い金額の最高は1,846万円で、100万円超の高額未払いも42件と前年の12件より大幅に増加しています。

1件あたりの未払い金額は5万円以下が74%を占めるものの、施設ごとの月間の未払い額の合計は平均49万円で、10施設で500万円を超える結果となっています。

外国人患者の医療費が高額となる事情

外国人であっても長期滞在者など日本の健康保険に加入している人であれば、医療費の自己負担額は3割以下となるため、比較的安価で済みます。
しかし、短期旅行者のように日本の保険証を持たない外国人患者の場合、医療費は自由診療になり、金額は高額になりやすいです。

加えて日本語での会話が難しい場合は通訳料が加算されることもあります。

医療費を支払わずに帰国する外国人旅行者

ところが、その高額な医療費を支払うことなく帰国してしまう外国人が増加しています

医療機関も外国人患者の滞在中に支払ってもらうよう働きかけを行っていますが、支払いに応じないまま帰国されてしまうと支払ってもらうことは困難になります。
発生した未払いの医療費は病院が自己負担しているのが現状で、これが積み重なれば病院だけでは抱えきれず、病院の破綻に繋がる恐れもあります。

最終的には、日本国民が支払う税金や健康保険料の負担の増加に影響することも考えられます。

日本政府による対策

外国人患者による医療費の未払いに対して、日本政府でも対策が進められています。

まず、訪日外国人に対して海外旅行保険の加入を推進しています。
通常、海外旅行に出発する前に自国で海外旅行保険に加入していれば、医療費の一部または全額を保険で補うことができますが、保険に加入せず来日する外国人も少なくありません。

保険未加入で来日する外国人旅行者へ向けて、実は日本の民間保険会社から「訪日外国人向け海外旅行保険」が販売されており、日本政府・国土交通省でも推奨しています。

例えば東京海上日動火災保険が提供する「TOKIO OMOTENASHI POLICY」では、日本への入国日から5日以内であれば加入可能です。
この保険では、医療費や移送費が1,000万円まで補償されるほか、通訳サービス・医療費のキャッシュレス対応交渉などの各種サービスが付帯されており、保険料は7日間のプランで2,960円と、比較的安価です。

日本政府では観光局のWebサイトや空港に掲示するポスターなどを活用して、訪日外国人に対して海外旅行保険への加入を推進していますが、今後もさらなる啓蒙が必要ですね。

また、医療費を未払いのまま帰国した外国人に対しては、次回以降の入国審査を厳格に行う制度も日本政府が運用しています。

この制度は、外国人患者による医療費の未払い情報を病院から厚生労働省に報告して集約し、一連の情報が出入国在留管理庁へ共有することで、次回の入国審査の取り扱いに反映させるものです。
これによって、医療費の支払いに応じない外国人は、それ以降の日本への入国が困難になるという仕組みです。

病院による外国人患者の受入れ体制も進む

それぞれの病院では保険証を持たない外国人患者を受け入れる際に、パスポートなど身分証の確認を行なったり、診療費に関する事前説明を行ったりするなどの体制が取られています。
しかし、医療機関ごとの外国人患者の受入れ体制整備方針や対応マニュアルの整備は進んでいるとは言えない状況です。

一方で、一部の医療機関では、外国人患者とコミュニケーションや調整などを行う外国人患者受入れ医療コーディネーターを配置する病院があるほか、医療通訳者の配置や、電話やビデオ通話を利用した通訳を行うなど、多言語化の整備も進められています。