現役の糖尿病療養指導士が書く糖尿病コラムdiabetes-column

糖尿病の治療費用平均はどのくらい?入院や合併症にかかる医療費を看護師が解説。

公開日:2021/04/28
最終更新日:2021/04/29

病気になったときに誰もが気になるのは、「治療費がいくらかかるのか?」ということです。
 
糖尿病は
①一生涯付き合っていく慢性疾患である
②複数の薬を内服・注射する必要がある
③合併症によっては医療費がかさむ
などの理由から、生涯にわたって治療費の負担が大きい病気です。

けれど病院では、医師や看護師から具体的に「お金がいくらかかるのか」という話を聞くことはありません。

この記事では、糖尿病の治療と医療費について、糖尿病療養指導士でもある現役看護師Akariがわかりやすく解説していきます。

現役看護師 小田あかり

この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり

看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など


糖尿病になったらいくらかかるの?

医療経済研究機構の「政府管掌健康保険における医療費等に関する調査研究報告書」によると、
糖尿病患者が支払っている医療費平均は、『年間7.4万円(健康保険で3割負担の場合)』と報告されています。

この費用が生涯にわたってかかってくるのですから、長い期間でみると医療費がとても大きな負担になることが分かります。

また、以下のグラフは、
1.投薬なし
2.薬を1種類だけ服用
3.インスリン注射と投薬
の3人の患者さんに、1年間に支払った負担額(窓口で支払う3割負担の金額)を糖尿病ネットワークが調査・比較したものです。

糖尿病の治療にかかる自己負担金額(1年間)

薬の処方が不要な方がもっとも医療費が少なく済みますが、薬が1種類増えるだけで患者さんが支払う金額は1年間で5万円も多くなります。
インスリン注射が増えれば、さらに4万円がかかります。薬を飲まない方と比べると3倍もお金がかかるのです。

さらに、糖尿病以外にも高脂血症や高血圧・腎臓病などの病気を持つ患者さんも多いので、実際に支払う医療費はさらに高くなるでしょう。

糖尿病の新薬は値段が高い。

糖尿病の新しい薬は毎年のように発売されています。
新しい薬は、今までのお薬よりも少ない量で効果があったり、副作用が少ないなど患者さんにもメリットが多いため、医師も積極的に処方しています。

しかし新しい薬は昔からある薬よりも、1錠当たりの値段が高いことも多く、患者さんが実際に支払うお金は5~10倍になる場合もあります。

どんなに効果が期待されるお薬でも患者さんにとっては薬局で支払いする金額が一気に跳ね上がるので、患者さんにとってメリットだけがあるとは決して言えないのです。

合併症が増えれば、医療費の自己負担はさらに大きく

糖尿病の管理が悪く血糖値が高い状態が続くと、初めは1種類だったお薬が、2種類になり、状態によっては、インスリン注射も必要になっていきます。
高脂血症や高血圧、尿酸の薬など、複数の内服治療が必要となる人も少なくありません。

糖尿病の合併症として多い、眼・腎臓・循環器の病気になってしまうと、さらにお金が必要になります。

インスリン導入や血糖コントロール目的での10日間の入院は3割負担の場合で12~16万円入院医療費がかかります
心臓や足のカテーテル治療などの場合は入院期間は1週間~1カ月以上と長期にわたることもあり、35~45万円の入院医療費がかかります。
(心臓や足のカテーテル治療などが必要な患者さんは、1年の間に2~3回入院加療するケースもあり、一生涯にかかる入院医療費は想像以上に高額になります。)

このように、糖尿病の合併症を発症したときの医療費負担はとても大きく、日ごろからの血糖管理や生活改善、民間医療保険などでの家計対策が特に大切になってきます

糖尿病療養指導士になって知った「お金がなくて治療を受けられない」患者さん

糖尿病は慢性疾患であり、生涯にわたって上手に付き合っていく必要があります。
しかし「将来の合併症を抑える」ことよりも、「今、負担がなく治療を続ける」ことに重きを置いている患者さんも少なくありません。

私が仕事で関わったSさんのお話をします。

Sさんは、20年以上糖尿病の治療を行っている80歳の男性です。
糖尿病の内服薬を1種類、1日3回飲んでいて、最近のHbA1cは7台半ばで推移していました。
長い経過の中でもう10年以上、Sさんは同じお薬を飲んでいます。

糖尿病療養指導士としてSさんと関わるようになって、「もう少しお薬を増やしたり、違うお薬にした方がもっと血糖値が良くなるんじゃないか?」と、思い医師に提案したことがあります。

その時に医師は
「Sさんはね、今まで飲んでいた薬でないと、払えないからお薬はいりませんって言うんだよ。お金がないときには、数か月来なかったりするんだ。Sさんにとって負担が少なく、治療を続けられるのがこのお薬なんだよ」
と話してくれたのです。

経済的な負担から、「医療者が考えるよりよい治療」を希望されない患者さんがいること初めて知りました。
同時に「医師におまかせ」ではなく、治療のメリット・デメリットを理解して、患者さんが治療を選んでいる側面もあることに気づかされたのです。

Sさんは医師から、食事と運動を見直すように指導され、帰宅されました。
3か月がたち、Sさんは食事と毎日のウオーキングでHbA1Cは6台後半に低下。
その後も、HbA1cが高くなることもありますが、食事や運動をこまめに見直すことで、同じお薬で今日も治療を続けています。

適切な医療を受けていないことで、合併症が出現するリスクは上がってしまいます。
けれども、治療を継続することも大切です。
「医療者が考える良い治療」を押し付けるのではなく、患者さんが治療を中断せずに続けられるように調整していくのも、慢性疾患である糖尿病の治療には必要であると今は思っています。

現役看護師 小田あかり

この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり

看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。

主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など