糖尿病患者さんの指導事例「認知症と糖尿病の難しさ」
最終更新日:2021/08/01
新型コロナウイルス感染症が拡大していくなかで、時々、病院に連絡があるのが
『体調がすぐれないけれど、受診したほうがいいですか?』
というご相談です。
今回はそんなご相談から発覚した「糖尿病患者の高齢化社会の問題」について、ご紹介したいと思います。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など
しょっちゅう低血糖をおこすようになったKさんのお話
80代女性のKさんは娘さんと2人暮らし。
30年以上の2型糖尿病で血糖値は100~200台、HbA1c6台とこの年齢の患者さんでは問題のない値でした。インスリングラルギン1日1回夜6単位、血糖降下薬を朝1錠飲んでいましたが、いままで一度も低血糖を起こしたことはありませんでした。
ある日、『気分がわるい、体調がすぐれない』とお電話でご相談がありました。
いままでKさんがそういうご相談をされたことはなく、医師も私も心配になり受診をすすめました。
採血結果では特に異常は指摘されず、新型コロナウイルス感染症をうたがわせるような症状もありませんでした。
医師からはこまめに血糖値を測定するように指導して、一ヶ月後の受診となりました。
1週間後、娘さんからお電話をいただきました。
朝食前・夕食前・寝る前に血糖をはかると、血糖値は150-300mg/dlとばらつきがあるとのこと。
1週間に2~3回、血糖値が70mg/dl以下になるときがあり、そのときに体調が悪いと言っていることがわかりました。
低血糖になるタイミングはばらばらで、食事もいつも通り食べられていましたし、娘さんはお母さんの様子に特に変わったことはないと話されていました。
Kさんの体調不良の原因は低血糖が考えられたので、インスリンを6単位を3単位に減らして、様子を見ることにしました。
さらに1週間後…娘さんからお電話がありました。
低血糖はまだ変わらず1週間に2-3回おきているとのこと。
食事はきちんと食べているし、生活自体の変化はないそうです。低血糖が続くのはやはり心配なので、医師と相談しインスリンは中止することにしました。
はじめにご相談をうけてから、1か月後の診察の日がやってきました。
看護師との面接でお話を聞くと、インスリンを中止したら血糖値は200-300 mg/dlと少し高めにはなっていますが、低血糖はまだ週1回くらいはあったそうです。
そのときに、
「あのね、お注射と針がね、もうなくなっちゃったのよ。飲むお薬はまだまだ沢山あるのにねぇ」
と本来であればまだ一本以上の残りのあるインスリンと、針がもうないから、今月は多めにほしいとご本人が話されました。
そこで、私はある事を思いました。
「もしかするとKさんは認知症で、インスリンを打ちすぎているのではないか?」
2型糖糖尿病の患者さんが低血糖を繰り返すようになったときに、
① 食事の摂取量が減っていないか
② インスリンや飲み薬の使い方を間違えていないか
という事を医療者は考えます。
Kさんももしかしたら…と思ったので、もう一度娘さんに詳しく話を聞いていくと、ときどき物忘れがあったり、日付や名前などが出てこない時があるという事がわかりました。
今までしっかりしていたKさんが…とも思いましたが、糖尿病の患者さんはそうでない患者さんよりも2~3倍認知症になりやすいと言われています。
Kさんも気づかないうちに少しずつ認知症が進行して、インスリンを打ったことを忘れて、多く打ちすぎている可能性が考えられました。
そして「インスリンを毎日夜6単位うつ」という長年の習慣があって、医師から「3単位に減らしましょう」「注射をやめましょう」と指示があっても、十分に守れていなかった可能性がありました。
医師の診察の結果、インスリンは2単位から夜再開することになりましたが、Kさんがきちんとインスリンを打てるのか?がとても心配です。
できれば、娘さんに打ってもらえるようにお願いしましたが「人に注射するのなんて、怖いから無理です」 と。あらためて、ご本人のインスリンをうつところを、見せていただきましたが、新人看護師さんよりもとても上手にできていたのです。
Kさんの問題点はインスリンを打つことではなく、管理する事だということがわかったので、本人と娘さんと相談して、娘さんが針とインスリン注射を管理することにしてみました。
そして1か月後。
Kさんは低血糖を起こさなくなり、血糖値は200mg/dl 前後と少し高め安定となりました。体調も安定して、気持ち悪さやだるさなども良くなっていったそうです。
糖尿病患者さんが高齢になっていく中で気を付けていること
Kさんのようにしっかりしている患者さんは、今日も次に来院された時もきっと大丈夫、問題がないと思ってしまいがちです。医療者のほうでも「特に問題ない患者さん」と思い込んでいる場合が多いのです。
しかしKさんのように、一見大丈夫でもほんの些細な変化から、認知症の進行が判明したりすることも、多く経験してきました。
年をとると目が見えにくくなるので、インスリンのメモリが見えなくなる場合があります。そういった場合は、インスリンのメモリを拡大する補助具をつけたり、耳が聞こえる場合はカチッとする音の回数で投与量を確認しています。
指先の力が衰えたり、細かい作業が難しくなる患者さんも多く、インスリンがきちっと押し切れなかったり、針をつけることが難しい患者さんもいます。
可能であれば、ご家族の方に協力していただいたり、訪問看護をお願いすることもあります。
同時に、そのインスリンが本当に必要なのか、もっと患者さんにとって良い薬はないのかを医師と相談するようにしています。
最近は薬も進化していて週1回でよい長時間作用の注射がでてきたので、そういった薬が使用できないか、医師に検討してもらうこともしています。
これからもKさんのように、自分自身で管理の難しくなる患者さんは増えてくるでしょう。
いつでもアンテナを張って、患者さんや家族にとって安心して生活できるような糖尿病治療を提供できるようにしていきたいと思っています。
この記事の執筆者:現役看護師 小田あかり
看護師として、腎臓・循環器、糖尿病に関する業務を多くこなし、糖尿病患者さんの指導も行っています。
多数の学会発表の経験を活かして、医療ライターとしても活動中。
主な所有資格:糖尿病療養指導士、呼吸療法認定士、透析学会認定など
糖尿病の悪化や合併症発症には保険での備えを。
糖尿病をお持ちの方に特に気を付けていただきたいのはやはり合併症です。
もし合併症が発症すれば生活・家計への影響が大きくなることもあり、それへの対策として保険はとても有効な手段です。
特に今は新型コロナという新しい病気が出てきており、糖尿病の方の健康リスクはさらに大きいものとなりました。
もしまだ医療保険に未加入の方がいらしたら保険加入をお勧めしたいです。
糖尿病の方向けの医療保険・生命保険を比較できるページを用意していますので、ぜひご参照ください。
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